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第49話 引き出し

「ずっと嫁に縛られていた。それは愛じゃなくて、呪いと罪悪感だった。だからといって年々忘れて解放されるのも罪悪感で、立ち往生していた。そんな中、君と出会って、君と過ごす時間が心地よくて、それは君が俺を好きだからだとわかった。君に告白されてその感情を嫁に抱いていたことを思い出した。ちゃんと愛し愛されて思いが通じ合っていたことも思い出した。暖かい思い出を暖かい思い出として、思い出せたんだ。それで、もう嫁のことは過去になったんだと思った」直哉さんは俺の目を見てる。「嫁のことは今でも思っている。でも、恋愛とは違う引き出しに入れなおした。そのひきだしに入れたままだと次はいれられないから」 直哉さんは俺をじっと見ている。 「君をその引き出しに入れたいと思った。君にこれからも愛されたい。俺も同じように君を愛したい」 「嘘だ」 「嘘じゃない。君にちゃんと答えたいと思ったから、さっき嫁にもごめんって謝ってきた。謝るのに物理的に時間がかかってしまってなかなかお店に行けなかったんだ。ごめんね」 直哉さんが立ち上がって、つながったままの手を引かれた。俺はひかれるまま立ち上がって直哉さんの胸に飛び込む。 「君のこと好きだよ。これから愛したい」 直哉さんは俺の頬に手をあててそのままキスされた。一瞬だったけど、しっかりと唇同士がふれた。 「嘘だ」 自分の唇をたしかめるように触る。 「君をかわいいとはつねづね思っていたけど、ただかわいいでキスするのは、体重が20キロになるまでだ」 「なにそれ」 またキスされた。次はぐっと舌が入れられて、気持ちよくてそのままこたえる。 「愛すべき人としてキスしてるってことだよ」  口を離すと、おでこに軽くキスをされる。 「本当に?」 「疑い深いな。本当に、愛しているよ。知花君と過ごす時間がとても楽しかった。君がいいなら、この先も一緒にいてほしい。君は?」 「俺も、好き。いっしょにいたいです」  今度は俺から直哉さんにキスをした。舌をいれると絡めてくれる。それだけでとんでもなくきもちよくて、身体が全部しびれる。 「明日は仕事休めない? もう夜も遅いし、今日はやっぱり休んでいきなよ。ごめんね、働き盛りにこんなこと聞いて」 「休めます。大丈夫です。この部屋泊まっていいんですか。」 「ロビーに聞いたから大丈夫」  いつのまに聞いたんだろうか、さっきフロントできいたとしたら、直哉さんはその時からこういう展開を考えていたんだろうか。 一緒に並んでベッドに座った。大きなマットレスが上品にしずむ。

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