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ハイスペックな彼氏②

「はぁ……終わったぁ……」  今日一日の業務を終えた俺は、倒れ込むようにナースステーションに椅子に座り込んだ。  いつの間にか窓の外は真っ暗で、看護師さんの数がやけに少ない事に気付く。 「もう、夜勤帯かぁ」  結局、昼食もまともに食べられなかった俺は、カロリーメイトにかじり付いた。糖分が一気に体に染み込んで行くように感じられて、ホッと息をつく。 「水瀬先生、お疲れ様です」 「あ、お疲れ様です」 「本当にこんなに遅くまで大変ですね」  夜勤の看護師さんに声をかけられる。自分と同級生くらいだろうか。優しそうで、可愛らしい子だ。きっと、こんな子と結婚したら幸せになれるんだろうなぁ……ってボンヤリと思う。 「でも、水瀬先生の指導係は、あの優しい成宮先生ですから。本当にラッキーでしたよね」 「あはは、本当にラッキーでしたよ……」  彼女の純粋な言葉に、つい頬が引きつってしまう。乾いた笑いが口をついた。  『優しい』成宮先生、かぁ……。  俺は、成宮先生が優しいなんて一度も思ったことなんてない。そもそも、優しくされたことがないんだから。 「顔も良くて頭もいい。おまけに性格までいいなんて……ああいう完璧な人は、天使みたいな人と結婚するんでしょうね?」 「へぇ、天使ですか……」 「そう、天使です。きっと可愛らしくて優しくて、家柄も良くて、スタイルも抜群!そういう人と結婚するはずです」 「そうでしょうか……」 「絶対そうですよ!」  キラキラした顔でそう話す彼女の言葉が、空っぽの自分の胸にズキズキと突き刺さる思いがする。苦しくて、切なくて、無意識に胸を鷲掴みにした。  

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