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離れ離れの夜に①
「朝から成宮先生爽やかね……」
「本当に。当直明けとは思えない」
日勤の看護師さんが出勤した途端、そこらかしこで溜息が聞こえてくる。
成宮先生は、昨日日勤が終わった後、そのまま当直をしていた。成宮先生が当直をしている時は当然家に1人きりなんだけど、いつもいつも、『誰かを家に連れ込むなよ』やら、『浮気はすんなよ』と言ったメールが届く。
酷い時には電話が何回もかかってくる始末で……よっぽど信頼されてないんだなって悲しくなってしまうのだ。
そんな俺の気持ちなど梅雨も知らない成宮先生は、普段つけてはいない銀色のフレームの眼鏡をつけ、気だるそうに白衣を羽織っている。伸びた前髪を、ブラックコーヒーを飲みながら掻き上げる姿なんて、看護師さん達じゃないけど本当に惚れ惚れしてしまうくらいだ。
「お疲れ様です、成宮先生」
「あ?俺がいなかったからゆっくり休めた、って顔してんな」
「え?」
労うつもりが痛い所をつかれてしまった俺は、素直に狼狽えてしまう。だって実際そうだから。
眠たいのに最後の力を振り絞ってエッチをする必要もないし、ゲームも好き放題できるし、何より誰にも気を使う必要がない。月に数回ある成宮先生の当直日は、俺にしてみたらいい気分転換なのだ。
「昨日は特に救急外来に来る子供が多くて、こっちはクタクタなのに……お前、俺がいない留守に浮気なんかしてないだろうな?」
「し、してませんよ!何でそうなるんですか?」
「本当だろうな?」
「本当です」
どこまでも信頼されていない俺は、ついムキになって否定してしまう。だって、俺は俺なりに成宮先生とは真剣にお付き合いをしているつもりだから。
「ふぅん……なら、確認してみるか?」
「確認?」
「そうだ、こいよ」
グイッ腰を引き寄せられ、俺はバランスを崩しながらも成宮先生に必死にしがみついつく。そのままヒョイと抱き抱えられ、俺は自然と椅子に座っている成宮先生の膝の上に跨る格好になってしまった。
「先生、先生……まずいですよ、誰かに見られちゃう」
「シーッ!今は朝のミーティング中だから大丈夫だ」
「でも……」
「大丈夫だって言ってんだろ?お前が暴れなければ、な」
すぐ近くのナースステーションで、出勤した看護師さん達がミーティングをしている声が聞こえてくる。誰かに見つかったらどうしよう……と不安になる俺は、何とか先生から逃げようと両腕を突っ張ってはみるけど、楽しそうな顔をした成宮先生に逆にギュッと抱き締められてしまう。
「お前が、本当に浮気してないかの確認と……」
耳に唇を寄せられて囁かれれば、ゾクゾクっと甘い電流が全身を走り抜けて行く。俺が女の子になってしまうスイッチを、いつもこうやって入れられてしまうのだ。
「一晩離れてた分の葵を補充させろ」
「あッ……」
首筋をペロッと舐められて、そのまま唇を奪われてしまう。それでも時間を気にしてか、いきなり舌を絡めとられチュウっと強く吸われる。
「ん、んん……はぁ、むぅ……」
あまりに激しいキスに、一気に周りが見えなくなってしまう。夢中で舌を絡め合い、息継ぎをするのさえ惜しいくらいに、お互いの唇を貪り合った。
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