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離れ離れの夜に⑥
時計の針は、朝の9時を指している。
窓からは真っ白な朝日が差し込み、眩しいくらいだ。日勤の看護師さん達の、「おはようございます、水瀬先生。当直お疲れ様でした」という爽やかな挨拶が、心にジワジワと染み渡る。
「あー、朝が来たぁ……」
あの後は、救急外来に患者さんはポツリポツリと来たものの、とても平和に当直は終わりを迎えた。
昨日、救急搬送されてきた男の子も、何とか容態が落ち着いたみたいだ。
「良かった……」
小さく呟いた瞬間、背中から誰かに抱き締められる。咄嗟の出来事にびっくりしたものの、すぐにシャンプーの香りで成宮先生だとわかってしまった。
「成宮先生、昨日はありがとうございました」
自分のお臍の前でギュッと組まれた成宮先生の手を、優しく擦る。
「先生、凄くかっこよかったですよ」
それでも、先生は顔を上げようとせず、自分よりも背の小さい俺の肩に顔を埋めている。まるで、拗ねた子供みたいだ。
「葵が当直だと、いつ電話くるかわかんねぇから、心が休まらねぇ」
「あ、す、すみません」
成宮先生に迷惑をかけてしまったと、今更ながらに反省し、俺は慌ててしまった。
「それに、飯作っても美味そうに食ってくれる奴はいねぇし、ベッドに入ってもシーツが冷たいし、洗濯物も1人分しかねぇから洗濯機回そうか悩むし……」
クスンと鼻を鳴らすその仕草なんて、いつも涼しい顔をして仕事を淡々とこなす、小児科の若きエースからは想像がつかないものだった。
あんなにかっこよかった成宮先生が、今は子供みたいだ……。
「葵がいない家は、静か過ぎてつまんねぇ」
ポツリ呟きながら、ギュッと俺にしがみついてくる。そんな成宮先生が、凄く可愛らしく見えた。
「今日は一緒に帰るぞ」
拗ねたように自分から離れない成宮先生の首に腕を回して、そっと口付ける。
「はい。今日は一緒に帰りましょうね」
俺達は、みんなに見つからないようにこっそりと、一晩離れ離れになっていた分のキスを交わしたのだった。
【離れ離れの夜に END】
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