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あなた色に染められて⑦
爽やかな朝、俺が出勤してまずやること。それは、デクス周りの整理や、植木鉢の水やり……ではない。昨夜犯した、己の醜態の反省会だ。
「まさか……潮まで吹いてしまうとは……」
気が付いた時には、体を綺麗にしてもらい、洋服を着せて貰った状態で、成宮先生に抱かれてベッドで寝ていた。
『お前、本当に良く潮吹くよな。恥ずかし……』
朝からニヤニヤとご満悦の先生を見て、俺はプルプルと震えながら俯くことしかできなかった。
その表情からは、『俺の手にかかれば、お前なんかチョロいもんだ』というのが手に取るようにわかってしまい……でも、それは事実で……俺は悔しくて、悶えることしかできなかった。
「でも、気持ち良かったなぁ」
散々自己嫌悪に陥った後、机に突っ伏してポツリ呟いた。これが俺の本音。
所詮、成宮先生に開発されたこの体は、成宮先生のお気に召すように反応してしまうのだ。悔しいけど仕方ない。
「葵、葵……」
「ん?」
「久しぶりだね。あたし、今日からこの病院で働くことになったんだ。またよろしくね!」
「美優 ?」
俺の目の前で笑う女の子は、俺より1つ年下の木下美優 。美優は同じ大学の薬剤部に所属していて、今では立派な薬剤師だ。
「へぇ、懐かしいなぁ。お前、全然変わってないな」
「何それ?褒めてんの?貶してんの?」
「馬鹿!褒めてるに決まってんじゃん!」
「なら良かった」
大学時代と変わらない、その屈託のない笑顔に正直癒される自分がいる。本当に、変わってないなぁ。
「葵がこの病院にいるって聞いたから、飛んできたんだ」
「そうなんだ。ありがとう」
「ふふっ。ずっと会いたかったよ」
「え?」
「あたし、葵と別れたこと、ずっとずっと後悔してたから」
「美優……」
「ずっとずっとね、葵に会いたいって思ってたんだよ」
ガタン。
突然ドアが開いた音がしたから、慌てて音のした方を向いた。
「水瀬、回診行くぞ」
「あ、はい」
そこには白衣を着た成宮先生が立っていて、俺達を見下ろしている。俺が女の子と話をすることを嫌がる成宮先生が少しだけ不機嫌そうな顔をしていたから、俺は内心焦ってしまったけど……それは取り越し苦労だった。
「君は新人さんかな?はじめまして。小児科医の成宮です」
いつものようにフワリと微笑めば、その場が一気にお花畑になったかのようだ。優しい風が吹き抜けて、薔薇の馨 しい匂いまで漂ってくる……そんな錯覚に襲われる。
「あ、きょ、今日から薬剤師としてお世話になります、木下です!よろしくお願いします!」
突然のイケメンの登場に、美優が目を輝かせている。そんな美優に、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
成宮先生は、礼儀正しくお辞儀をしたのだった。
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