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あなた色に染められて⑪

 息を切らして走って走って、マンションに辿り着いた時、俺はエントランスの階段に蹲っている黒い物影を見つけた。 「誰だろう」  少しだけ恐怖を感じながら目を凝らせば……。 「千歳さん……」  俺の声に弾かれたように、その人物は顔を上げた。 「もしかして、ずっとそこで待ってて……」  拗ねたような顔で俺を見上げているくせに、何も言ってはこない。俺はそっと成宮先生に近付いて、その体を抱き締めた。  そんな成宮先生の体は氷みたいに冷えきっていて、少しだけ震えている。その冷たい頬を両手で包んで、優しく口付けた。 「千歳さん、ずっとずっと俺を待っててくれたんですか?」 「あ?」  俺の腕の中にいる成宮先生の体が、ピクンと反応する。天ノ弱が牙を向いた瞬間だった。 「俺は別にお前なんか待ってねぇよ。ただ、夜風が気持ちいいからここにいただけ」 「そうですか……俺はてっきり、美優と出掛けた事が心配で待っててくれたものかと……」 「はぁ?そんな訳ねぇだろ?あんなブスに、俺がヤキモチ妬く訳……ねぇよ……」  最後の方は小声になって、良く聞き取れなかった。それでも甘えたいのか、クスンと鼻を鳴らしながら、俺の首筋に顔を埋めてくる。 「ヤキモチなんか妬かねぇ。だって、葵は俺の物なんだろう?」  少しだけ不安そうな顔をしながら俺を見上げてくる成宮先生。あのいつも自信満々な人が、こんな怯えた顔をするんだって驚いてしまった。  こんな取り柄も何もない俺が、あなたをこんなにも揺さぶる事ができるなんて……ごめんなさい。俺、凄く嬉しいです。 「そうです。俺はあなたの物です」 「当たり前だろ」 「はい。あなたのお気に召すままに……」  ニコリと笑って見せれば、いつもの成宮千歳がほくそ笑む。 「わかってんじゃん」  そう、これでいい。あなたはこうでなくちゃいけない。 「寒い……」  甘えたような声を出して、俺をギュッと抱き締めてくれる。あ、やっぱり寒かったんだ……って思わず笑ってしまった。 「葵であったまりてぇ」 「いいですよ。俺であったまってください」 「何?誘ってんの?」 「さぁ?どうかな……」 「へぇ、言うじゃん」  その不敵な笑みにクラクラしてしまう。珍しく俺からキスをすれば、その柔らかくて甘い感触に心がポカポカと温かかくなる。  俺、馬鹿だから良くわかんないけど、メチャクチャ幸せなのかもしれない……。そのまま、飽きるまでキスを交わした。 「おでん食いてぇな……」 「あ、やっぱり帰りに買って来れば良かったですね?今からコンビニ行きますか?」 「うん、行く」 「ふふっ。じゃあ行きましょう」  そっと手を取って、ゆっくりと歩き出した。 【あなた色に染められて END】

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