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苦いのに甘い飴②

 そんな俺に救世主が現れる。 「今日から小児科病棟で研修をさせていただきます、遠野未羽(とおのみわ)です。よろしくお願いします」 「あ、俺、水瀬葵って言います。よろしくお願いします」  違う病院から、研修医が期限付きで実習に来たのだ。他施設で研修を受け、新しい知識を身に着けることを目的としているようだが、病棟にまた違った風が吹くようで楽しいなって感じる。  それに、わざわざこの病院を指名してきてくれたっていうことが、凄く嬉しい。  何より……。 「遠野君の指導医を務めます、成宮です。よろしくお願いします」  成宮先生が遠野と自己紹介した青年に、営業スマイルを向けている。 「はい、よろしくお願いします」  そんな見た目のいい成宮先生を見て、遠野は目を輝かせてた。この人の本性を知らないなんて、気の毒な人だ……。  遠野は瘦せ型で、少年のような見た目をしている 、可愛らしい雰囲気を持った男だった。それに優しそう。 「よっしゃ!」  俺は心の中でガッツポーズを作る。  今小児科にいる研修医は俺だけだ。ということは、嫌でも俺が目立ってしまうのだ。でも2人いれば怒られるのも半分になるかもしれない。木の葉を隠すなら山に隠せ……これで俺は目立たなくなることだろう。  ホッと胸を撫で下ろしていると、成宮先生がニヤニヤしながら近付いてくる。この顔をしている時は、俺を虐めたくて仕方ない……っていう時なのだ。  嫌な予感しかしない。 「仲間ができたからって楽になると思うなよ?」 「え、そ、そんなこと……」  この人は透視能力があるのだろうか……そう思える位考えを見透かされてしまった俺は、わかりやすく狼狽えてしまった。 「もし、あの遠野って奴が凄い優秀だったら……」 「あ……」 「お前は余計駄目に見えるかもな?」 「そんな……」  そうだ、考えもしなかった……そういうパターンもあるのか……。  俺は言葉を失ってしまった。 「でもな。俺は例え何人研修医がいても、葵しか目に映らないけどな」 「……え?」 「俺には、お前しか見えないって言ってんの!ばぁか!」  クシャクシャと頭を乱暴に撫でてから、成宮先生は行ってしまう。  その場には、俺と遠野だけが残された。 「えっと、遠野さん」 「未羽でいいよ。多分同じ年だし」 「本当?じゃあ俺は葵って呼んで」 「うん。ありがとう」  そう笑う遠野は凄くいい奴に見える。きっと仲良くできる……そう感じた。  その後、回診に行くまでの間、俺と遠野は少しだけ話をした。  遠野は昔、糖尿病を患って内分泌科に入院したことがあるっていうこと。将来的には小児科医になりたいって思っていること……自分の事をきちんと話してくれる遠野との話は、数分だったけど凄く楽しくて、充実したものだった。  この場所で、同じ立場で話ができるっていうことが、とても新鮮に感じられたから……。

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