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苦いのに甘い飴③
「お前らはさ……」
成宮先生の盛大な溜息が静かな廊下に響き渡る。
「なんで採血もまともにできないわけ?」
「すみません」
「腐っても研修医……医師免許持ってるんだよな?」
「すみません」
「はぁぁぁぁ……もういいや」
疲れ切ったような表情を浮かべながら髪を掻き毟っている。
でも、そんな姿もイケメンだった。
遠野は俺の期待を裏切ることなどなく、俺と同類だった。
「あのさ、中学2年生の徹也君の採血ってそんなに難しいか?中2ともなれば、いい血管がボコボコ出てるだろうに……」
「全くその通りなんですが、僕達には血管が見えませんでした」
「はぁぁぁぁ。水瀬が2人に増えただけじゃん」
落ち込み俯くことしができない俺と遠野を見た成宮先生が、更に大きな溜息をつく。
俺は中学2年生の西島徹也 君の採血をするために、意気揚々と病室を訪れた。徹也君は夏休みを利用しての検査入院で、体格がガッチリした中学生だった。勿論血管だって若くてピチピチしているはずだ。
「楽勝楽勝!」
そんな俺の考えは、数分後見事に打ち砕かれることとなる。
柔道部だという徹也君は意外と肉付きが良く、血管が見えないのだ。「これは雰囲気と勘でいくしかない」と何回かチャレンジするも失敗。不穏な空気を感じた俺は、
「未羽……採血代わってもらってもいい?」
と、遠野に泣きついた。初対面の相手に恥ずかしいとか、情けないとか……そんな事を言ってられる状況ではなかったから。
それに、こんなに気楽にバトンタッチができる仲間がいることが嬉しかったし、頼もしくもあった。
……結果、遠野も全て失敗し、2人で徹也君に頭を下げ病室を後にしたのだった。
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