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苦いのに甘い飴④

「もういい、俺が行ってくる」 「はい。お願いします」  再び2人で頭を下げ、成宮先生を見送った。 「はぁ……俺さ、本当に出来が悪いんだよ」  医局のソファーに崩れるように座り込む。遠野には何でも話せる気がした。だって、俺と同じ匂いを感じたから……。 「未だに採血だって、成功確率は運ゲーレベルだし。手術となれば、前の日から緊張して眠れないくらいだし……」 「葵……」 「成宮先生みたいなスーパードクターがいるこんな病棟で、情けないよな」  ポツリと零れた本音。  こんな事今まで誰にも話せなかった。今まで抱えていた胸のつかえが、一気に溢れ出した気がした。 「本当に自分が不甲斐なくて嫌になるんだ 。医者を辞めようか、今日こそ辞表を出そうかって、いつも悩んでる。俺は医者に向いてないって思うから」  目頭が熱くなったから、遠野から視線を逸らした。  本当に、俺はどこまでかっこ悪いんだろう……。 「ほら、葵。これあげる」 「ん?」 「これあげるよ。元気が出る魔法の飴だから」 「魔法の飴?」 「そう」  そう笑う遠野の手には、可愛らしい紙に包まれたキャンディーがひとつ。 「これ食べれば元気になるよ。低血糖だって治るし」 「ありがとう」 「どういたしまして」  遠野からもらった飴を口に放り込めば、甘くて優しい味が口の中に広がる。その優しい味に、また涙がでそうになる。 「甘くて美味しい」 「だろう?」 「うん。あの人とのキスの味がする」 「え?キス?」 「ううん、何でもない」  うっかり口走ってしまった失言が恥ずかしくて、俺は思わず顔を背けた。

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