39 / 184

暑中お見舞い申し上げます②

 ジューッというベーコンが焦げる香りに誘われたのか、寝ぼけ眼の成宮先生が起きてくる。 「おはようございます、成宮先生」 「おはよ。暑ちぃ……」 「本当に。朝から暑いですね」  上は何も身に付けていない成宮先生が背中にくっついてくる。 「重たいぃーー!」 「うるさいよ」 「料理しにくいです」  俺のクレームなんて聞こえていないかのように、更にギュッとしがみついてくる。 「夏って朝から暑いんだなぁ」  俺は汗を脱いながら朝食を完成させた。  朝食を済ませ、今日は同じ日勤だからと出勤の準備をする。  洗面所で歯磨きをしていれば、そっと手を握ってくる。そんな成宮先生が可愛らしくて、ギュッと手を握り返した。  洋服を着て、出掛ける前の点検をグルッと一周。 「エアコン止めたよね」  エアコンが効いていない室内は既に蒸し暑い。 「葵、行くぞ」 「あ、はい!」  成宮先生が手をヒラヒラさせながら玄関で待っていてくれたから、嬉しくなってその大きな手に飛びつく。 「でもやっぱり暑いー!」  大きく息を吐いてから家を後にした。  病棟に行く前の医局で、最後にキスを交わす。  ここから、俺と成宮先生は恋人ではなく、上司と部下という関係になるのだ。  それはたった数時間だけなのに、なんだか凄く寂しくて……。 「成宮先生、もっとキスして?」 「エッロいなぁ」  キスをねだれば成宮先生が嬉しそうな顔をしながら、強く抱き締めてくれる。 「ん、ん……はぁ……ッ」  舌を絡め合ってお互いの唇を貪り合って。名残惜しそうに唇を離せば銀糸が2人の間を繋いだ。 「行くぞ」 「はい」  白衣を羽織り、俺は病棟へと向かう。 「やっぱり病院も暑いんだよなぁ」  俺は額に滲む汗を拭った。  

ともだちにシェアしよう!