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意地悪なのに、優しい人⑩

「水瀬、この子を担当してみな」 「え?僕が、ですか?」 「ああ。そろそろ患者を持ってもいい頃だからな」  その言葉に俺は目を見開いた。  研修医になって初めて、担当の患者さんを持たせて貰えた俺は、めちゃくちゃ嬉しかった。  それは、俺が医師として成長した証にも感じられたし、何より……成宮先生に認められたような気がして嬉しかったのだ。  それに、その子からしてみたら、俺は『主治医』となる。 「主治医かぁ」  きっと、医師としての大きな一歩を踏み出すことができる。  俺の胸は高鳴った。 「ただ、ちょっと難しいケースかもしれない」 「え?そうなんですか?」 「この子は先天性の疾患を持っていて、今までも入退院を繰り返している」 「はい……」 「名前は蓮田紗羅(はすださら)ちゃん。3歳」 「3歳、ですか」 「ああ。今回は非常に危険な状態だ。もしかしたら、命に関わるかもしれない」  その成宮先生の言葉に、俺は目を見開いた。  そんな重症な患者を、俺が受け持つことができるのだろうか。 「お前が受け持ってやれ」 「なんでこんな重症な子を、俺が?」  自分の手がカタカタと小刻みに震えるのを感じる。  3歳の幼い命が自分に委ねられるなんて、俺はそれが強いプレッシャーっとなった。 「誕生日がお前と同じなんだよ」 「え?」 「誕生日がさ、お前と同じ7月7日なんだ」 「…………」 「なんか、そういうの運命なんかなって」  成宮先生が、紗羅ちゃんのカルテを俺の前に置く。先生が指さした所には、紗羅ちゃんの生年月日が書いてあった。 「あ、本当だ。俺と誕生日が同じだ」  ポツリ呟く。 「大丈夫だ。俺がサポートしてやるし、全部お前に任せっきりなんかしないから」 「成宮先生」 「だから、やれるだけやってみな?」  そう言うと、成宮先生はどこかに行ってしまう。  俺は、その背中を見つめた。 「なんで、成宮先生は俺の誕生日を知ってるんだろう」  俺の心臓が、再び甘い不整脈を奏で始めた。  

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