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意地悪なのに、優しい人⑪
「あ、いた!柏木!」
「水瀬、久し振り……って、わっ!」
俺は大学の同級である柏木比呂 の腕を掴み、物陰へと引きずり込んだ。
「なんだよ、水瀬。一体どうしたんだ?」
突然の俺の不可解な行動に、柏木が眉を顰めた。
「内科病棟にいる柏木に、相談があるんだ」
「え?何?相談って……」
俺が泣きそうな顔をしたらしく、柏木が俺の顔を覗き込んでくる。
柏木はやんちゃな感じに見えるけど、本当は凄く真面目でいい奴だ。
俺の一番の親友、と言ってもいい。
「俺、何かの病気かもしれない」
「病気?」
「うん」
俺は柏木の腕をギュッと掴んだまま、俯いた。
「水瀬、落ち着いて。俺にちゃんと話してくれよ」
俺は俯いたまま、コクンと頷く。それから、ポツリポツリと話し始めた。
「俺さ、時々不整脈みたいな感じになって、呼吸が苦しくなるんだ」
「マジか?どんな時にその症状が出るんだ?」
「それが、ある特定の人の傍にいるとそうなっちゃうんだよ 」
「は?」
柏木が目を見開く。
「その人、普段はめちゃくちゃ素っ気ないのに、ふとした時に優しくて……そんな時に、心臓がドキドキして、息ができなくなる」
「お前、それって……」
「多分、俺何かの病気だと思う。なぁ、どうしたらいいと思う?検査とかしたほうがいいかな?」
「水瀬、本当に勘弁してくれって……」
「え?」
柏木が苦笑いをしながら大きな溜息を付くものだから、俺はますます不安になってしまう。
「その病気はな、いくら検査したって原因はわからないし、どんな薬を飲んだって治らないよ」
「そんな……不治の病ってこと?」
「そう。人間がこの世に生を受けてから、ずっと続いている不治の病だ」
「俺は、どうしたらいいんだろう……」
俺は、柏木の言葉に肩を落としてしまう。
ようやく研修医になれたばかりなのに、不治の病だなんて……そんな……。
そんな俺を見て、柏木がククッと喉の奥で笑いながら、バシバシと背中を叩いてくれる。
「まぁさ、その人にお前のその症状を話してみたら?何とかしてくれるかもしれないぜ?」
「え?成宮先生なら治せるの?」
「は?お前がそうなる相手って、あの小児科病棟の若きエース、成宮先生なの?」
「うん。そう」
「それはそれは……随分と高嶺の花に……」
柏木が、『ご愁傷様』と言わんばかりに顔を顰めた。
「とりあえずさ、成宮先生に素直に話してみなよ?案外、あの人なら治してくれるかもよ?」
「そっか、わかった。成宮先生に相談してみるね。ありがとう、柏木」
俺が柏木に向かってニッコリ微笑めば、
「いやあ、お前があの人をね……そもそもお前、ノンケだろうに……」
「ん?何か言った?」
「ううん、何でもない。とにかくお大事にね」
ヒラヒラと手を振りながら微笑む柏木を見て、俺は『友達っていいな』と心の底から思ったのだった。
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