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意地悪なのに、優しい人⑫
沙羅ちゃんを目の前に、俺は一瞬言葉を失った。
体調が悪くなってから、しばらく自宅で様子をみていたけど一向に状態に改善が見られなかったため、今日入院となったのだけど……俺の想像以上にその容体は悪かった。
3歳だというのに、まるで新生児のように体が小さくて、苦しそうに呼吸を繰り返す胸郭の動きだけがやたらと目立つ。体全体が蒼白く、沙羅ちゃんの小さな体にはたくさんの管がついていた。
「担当医の水瀬葵です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺に向かって丁寧に頭を下げる両親は、俺と同じ年位に見えた。
入院にももう慣れっこなのだろう。特に慌てる様子もなく、淡々と手続きを行っていた。
「こんにちは。私も水瀬君をサポート致しますので」
「あ、成宮先生。よろしくお願いします」
それでも成宮先生の顔を見た瞬間、沙羅ちゃんの両親の顔がパッと明るくなる。
成宮先生を信頼していることが、それだけでも伝わってきた。
「絶対に元気にしてあげるからね」
俺は、その光景を見て、身が引き締まる思いがした。
しかし、想像以上に沙羅ちゃんの容体は深刻だった。
どんなに薬を調整しても、点滴を工夫しても、沙羅ちゃんの血液データはガタガタのままだ。その変わり、日に日に状態は悪くなっている。
「どうしたらいいんだよ……」
俺は頭を抱えて低い唸り声を上げる。
「このままじゃ沙羅ちゃんが……仕方ない、行くか」
意を決して俺は、ある場所に向かった。
「失礼します。成宮先生、ちょっとよろしいですか?」
「あぁ?入れば?」
気怠い声が聞こえてきたから、俺はそっとドアを開ける。
薄暗い室内の中には、パソコンを真剣な顔で見つめている成宮先生がいた。
疲れているのか、前髪をクシャクシャと搔き上げる……そんな姿も、悔しい位様になっていた。
「あの、沙羅ちゃんのことなんですが……」
俺は最新の検査データを成宮先生に渡す。
「んー?」
それに目を通した成宮先生が、気の抜けたような顔で俺を見上げた。
「お前にしては頑張ってるんじゃん?」
「え?でも……全然良くなってないんです」
「仕方ないよ。沙羅ちゃんはいつ急変してもおかしくない状態だ。それは、ご両親も了承してる」
「そんな……」
サラリと言ってのける成宮先生に、俺は顔を引き攣らせた。
「今のお前は医師としての冷静さが欠けてる。そんなんじゃ駄目だろ?沙羅ちゃんはお前にとって患者であって、家族じゃない。それに、お前は医師であって神様でもない。それを吐き違えると、医師として失格だぞ?」
「何もそんな言い方しなくても……」
俺は怒りのあまり、全身がカタカタ震えてくるのを感じる。
あまりにも冷たい成宮先生の態度に、怒りすら感じていたのだ。
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