55 / 184
意地悪なのに、優しい人⑬
「俺はただ、沙羅ちゃんに元気になって欲しくて……」
「元気になれないこともある」
「でも、でも……!!」
「もうみんなが十分に頑張ってる。これ以上やりようがない」
「そんな……」
「わかったら出て行け。仕事の邪魔だ」
その言葉がトドメだった。
俺の目からは涙あボロボロと溢れ出し、頬を伝う。それがバレないように、慌てて涙を拭って部屋を後にした。
「成宮先生ならどうにかしてくれると思ったのに……」
全身の力が抜けているのを感じた俺は、その場に蹲る。
自分の無力さと、成宮先生に相手にさえしてもらえなかったことが、悔しくて仕方なかった。
それからの俺は、寝る暇さえも惜しんで、沙羅ちゃんの病気に関する論文や、文献を読み漁った。
なんとか沙羅ちゃんを元気にしてあげたい。
だって俺は、沙羅ちゃんの主治医だから。
「駄目だ、どうにもなんない」
睡眠時間を削り、休憩もろくに取らずに調べ事に没頭して俺には、既に限界がきていた。
フラフラと眩暈はするし、頭がボーっとして思考がまとまらない。寝不足のせいか、目の下にはクマができて、顔は蒼白かった。
それでも、毎日沙羅ちゃんを見舞いに来ては、優しく話かける母親を見ると、俺の胸はギュッと締め付けられる。なんとかしてあげたい……そして、また振り出へしと戻ってしまうのだ。
「お願い生きて……」
俺は祈ることしかできなかった。
ともだちにシェアしよう!