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意地悪なのに、優しい人⑬

「俺はただ、沙羅ちゃんに元気になって欲しくて……」 「元気になれないこともある」 「でも、でも……!!」 「もうみんなが十分に頑張ってる。これ以上やりようがない」 「そんな……」 「わかったら出て行け。仕事の邪魔だ」  その言葉がトドメだった。  俺の目からは涙あボロボロと溢れ出し、頬を伝う。それがバレないように、慌てて涙を拭って部屋を後にした。 「成宮先生ならどうにかしてくれると思ったのに……」  全身の力が抜けているのを感じた俺は、その場に蹲る。  自分の無力さと、成宮先生に相手にさえしてもらえなかったことが、悔しくて仕方なかった。  それからの俺は、寝る暇さえも惜しんで、沙羅ちゃんの病気に関する論文や、文献を読み漁った。  なんとか沙羅ちゃんを元気にしてあげたい。  だって俺は、沙羅ちゃんの主治医だから。 「駄目だ、どうにもなんない」  睡眠時間を削り、休憩もろくに取らずに調べ事に没頭して俺には、既に限界がきていた。  フラフラと眩暈はするし、頭がボーっとして思考がまとまらない。寝不足のせいか、目の下にはクマができて、顔は蒼白かった。  それでも、毎日沙羅ちゃんを見舞いに来ては、優しく話かける母親を見ると、俺の胸はギュッと締め付けられる。なんとかしてあげたい……そして、また振り出へしと戻ってしまうのだ。 「お願い生きて……」  俺は祈ることしかできなかった。

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