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意地悪なのに、優しい人⑭

「お疲れ様です、水瀬先生」 「あ、お疲れ様です」 「毎日夜遅くまで大変ですね?沙羅ちゃんのことですか?」 「はい、そうです」  夜勤の看護師さんに声を掛けられ、俺は思わず顔を上げた。  時計を見ればもう夜の11時だ。 「そろそろ帰ろうかな」  重い体に鞭を打って立ち上がろうとした俺に、看護師さんが話しかけてくる。 「成宮先生も、夜遅くまで沙羅ちゃんの病室にいますよね?」 「え?そうんですか?」 「はい。色々勉強されているみたいだし、この前は国際電話かな?英語でどこかのお医者さんとお話してましたし」 「…………」  俺はその言葉に思わず目を見開いた。  成宮先生が……俺、そんなの全然知らなかった。 「成宮先生も、何とか沙羅ちゃんを助けてあげたいって、必死に頑張ってくれてますよね。そんな姿が、本当にかっこいいです!」  頬を赤らめながら照れくさそうに笑う看護師さんは、きっと成宮先生のことが好きなのかな……って思う。 「今日もまだ、心臓外科の病棟にいるみたいですよ。沙羅ちゃん、心臓も悪いから」 「そうなんですね……」 「水瀬先生も、できるだけ早く帰って休んでくださいね」 「はい、ありがとうございます」  俺はフラフラと廊下を歩く。  廊下の冷たい風が火照った頬を冷やしてくれて凄く気持ちいい。遠くでなっているナースコールが、酷く遠い世界に感じた。 「成宮先生、沙羅ちゃんのこと、見捨ててたわけじゃなかったんだ」  ポツリ呟く。 「なのに、酷い事言っちゃったな……」  鼻の奥がツンとなって、目頭が熱くなる。 「ごめんなさい」  でも、意地っ張りな俺は、素直に先生に謝ることなんて……できそうになかった。  医局に戻っても部屋の中は薄暗くて、成宮先生の荷物は置きっぱなしだ。まだ、成宮先生は帰っていない。  きっと、紗羅ちゃんの事を色々調べていてくれているんだろう。  俺は大きな溜息をつきながら、ソファーに座る。 「必死な素振りなんか全然見せなかったくせに、かっこ良過ぎでしょ……」  その時、俺の心臓がまたトクントクンと甘く高鳴り出す。   「俺の為でもあるのかな……」  そう考えると、胸がキュッと締め付けられた。 「先生、ごめんななさい」  ソファーに横になると強い睡魔に襲われた。 「先生……俺、やっぱり病気かもしれません。だって、胸が、胸がこんなにも苦しい……」  そのまま、俺はそっと目を閉じた。

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