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意地悪なのに、優しい人⑯

 チュッ。チュッ。  フワリ、と唇に温かいものが触れる感触に、体中が甘く痺れていくのを感じる。  その啄むようなキスに、俺は目を細めた。 「はぁはぁ……んん……あ、はぁ……」  唇が離れた一瞬の隙に、俺は乱れた息を整える。  それでも自分でわかってしまった。熱っぽい視線で、成宮先生に「もっともっと」ってキスをねだっていることを。 「んっ、んん」  再び唇が重なった時、クイッと口の中に甘い味が広がっていくのを感じる。俺は、成宮先生から口移しで何かをもらったらしい。  それは口一杯に広がって、フワリと消えていく。俺は成宮先生の唾液と共に、コクンと飲み込んだ。 「美味いだろ?そのチョコレート高いんだぜ?」  成宮先生が、俺の目の前で悪戯っぽく笑う。 「あ、チョコレートだったんだ」 「はぁ?何だと思ったんだ?」 「成宮先生のキスの味かと思った」  俺は、自分でも信じられないくらいの甘ったるい声を出しながら、成宮先生を見つめた。  これじゃあ、雄猫を誘惑する雌猫みたいだ。 「ふふっ。俺とのキスは、そんなに甘いの?」 「はい。めちゃくちゃ甘くて、蕩けそう……ん、んんッ。はぁ……」  もう一度成宮先生がキスをしてくれたんだけど、俺はもう脳みそまで蕩け切っていて、これが成宮先生のキスが甘いのか、もう一つチョコレートを口移されたのかさえ、わからなかった。 「甘ぁい……」  クチュクチュとエロい音を立てながら、俺は夢中で成宮先生とキスを交わす。  必死に成宮先生にしがみついて、離れて行く唇を追いかけて。  トクントクンと鳴り響く心臓が、煩くて仕方なかった。

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