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意地悪なのに、優しい人⑰
あんなに綺麗だった桜の花びらが散って、新緑の季節となった。
キラキラと若葉は日差しに煌めき、爽やかな風にサラサラと揺れる。真っ青な空がどこまでも続いて、大きく深呼吸をしたくなった。
「気持ちいいなぁ」
あと少しで小児科病棟の研修も終わりを迎える。
そんな中、俺の病状はどんどん悪化していった。
最近では成宮先生の傍にいるだけで、動機息切れが激しい。その場に倒れそうになることもしばしばだ。
柏木に何か薬を処方してもらおうと、何度か彼を訪ねてはみたものの、笑顔で追い返されてしまった。そんな症状に振り回されながらも、なんとか研修は乗り切れそうだ。
ただ一つを除いては……。
沙羅ちゃんの容体は、一向に回復へ向かって行かない。低め安定……そう言ってしまえばそうなんだけど、日に日に蒼白くなっていく顔を見れば、何とかしてやりたいと思うのだ。
「水瀬、沙羅ちゃん、そろそろ輸血に踏み切るぞ」
「輸血、ですか?」
「そうだ。このままじゃ手遅れになる」
俺の前に最新の採血結果を置いて、貧血の項目をトントンと指さす。
「それから、ご両親にはかなり危険な状態であることを説明したおいたほうがいい」
「そんな……」
「仕方ないだろう。これが、今の医療の限界なんだ。俺達は、神様じゃない」
そう話す成宮先生の顔は、苦痛に歪んでいた。
その顔を見れば、凄く苦しいんだろうな……って言うのが、痛い程伝わってくる。それは、俺よりももっともっと強い物だろう。
「わかりました」
俺は、小さく頷いた。
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