60 / 184

意地悪なのに、優しい人⑱

 成宮先生と一緒に、沙羅ちゃんのご家族に『非常に危険な状態である』という説明をした。  我が子のこんな告知を聞けば、泣いて取り乱すのかなって思っていたけど、案外冷静に説明を聞いている。俺は、それがとても不思議だった。  二人きりになった時に、成宮先生にそっと問い掛けた。 「なんで沙羅ちゃんのご両親は、あんなに冷静だったんですか?」 「沙羅ちゃんはさ、生まれながらに病気を持っていた。今まで何回も生死の狭間をさ迷って、なんとか一命を取り留めて……の繰り返し」  成宮先生が、自動販売機で買ったコーヒーを一本俺に手渡してくれる。  自分のコーヒーはブラックなのに、俺に手渡したコーヒーには砂糖が入っていた事に、少しだけ感動してしまった。 「沙羅ちゃんのご両親は、今まで精一杯頑張ってきた。だから、きっと覚悟みたいなものがあるんじゃないかな……」 「覚悟?」 「そう。俺は親になったことはないし、これからもなることはないから、良くわかんねぇけどさ」 「え?」 「ただ、親が子供を思う気持ちって凄いよ。これだけは確かだ」  その言葉が、俺の胸に強く響く。  だから、 『なんで先生は、親になることがないんですか?』  って聞いてみたかったけど、俺はその言葉を飲み込んだ。  

ともだちにシェアしよう!