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意地悪なのに、優しい人⑳
「水瀬。お前が泣いてどうすんだよ。医者が泣いたら、みんなが不安になる。だから、最後まで『医師』っていう仮面は外すな。泣くのなんていつでもできる」
「はい」
「いい子だ。最後まで頑張れ」
トクントクン。
嫌だ……また胸が痛い。
息もできないし、心臓が痛くて仕方ない。こんなの、普通じゃない。
貴方は本当にズルい。いつもは俺にだけ素っ気なくて、冷たいのに……それなのに、こんなにも優しい。
その温度差に、俺はついていけない。
「成宮先生」
「ん?」
ほら、その不愛想な返事。他の人にだったら、「どうしましたか?」なんて、もっと優しい笑顔を向けるはずだ。
何で、俺にだけそんなに素っ気ないんですか。
俺だって、俺だって……貴方に笑いかけて欲しい。
「俺、病気みたいなんです」
「病気?お前が?」
「はい。貴方の傍にいると、心臓がドキドキして、息ができなくて、苦しい……」
「お前……」
「親友の柏木に聞いたら、不治の病だし、薬も処方できないって言われました。でも、成宮先生なら、俺のこの病気が治せるって……」
俺は、目に涙を一杯浮かばせながら、成宮先生を見上げた。
「先生、俺苦しいんです。どうか、この病気を治してください」
「水瀬……」
「胸が苦しくて仕方ないです……」
俺の頬を涙が伝った瞬間、ピリリリリリリッ。
俺のPHSが緊急を知らせた。
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