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ごめんね、大好き①
すれ違い。
それは、どんなに思い合っていても、どんなにわかり合ってても、避けては通れないのかもしれない。
もし、本当に大好きな人とすれ違ってしまって、繋いでいた手が離れてしまったら……どうしたらいいんだろう。
成宮先生には、いつも隣で笑っていて欲しいから。
だから、繋いでる手を絶対に離したくないし、離さないで欲しい。
成宮先生が、珍しく泣きそうな顔で囁いた。
なぁ、ごめんね。大好き。
俺の彼氏である、成宮千歳の特徴と言えば、ツンデレ、俺様、ヤキモチ妬き、超束縛系、ワガママ……咄嗟に思い付くものと言ったら、あんまりいい事は思い付かない。
しかし、俺が、一番心だけでなく、体までもを悩ませていることと言えば……。
「なぁ、葵……しよ?」
「えぇ?ここ、職場ですよ?しょ、く、ば!嫌ですよ!」
そう。この怪物並の性欲の強さだ。
家だろうが、職場だろうがこの男には関係ない。したい時= やる時、というこの恵まれた頭脳からは信じられないような単純方程式が存在していた。
そうなってしまえば、医局や当直室やら、人が来なそうな場所に連れ込まれて好き勝手にされてしまう。
今日は休日で、小児科で出勤している医師は俺と成宮先生だけ。
業務が一段落して医局で待機している時に、甘えながら抱きついてきたから、キッパリと断ってやった。
いつも聞き分けのいい俺が、反抗してくると何だか面白くないらしい。明らかに「葵の分際で……」と、イラッとしているのがありありと顔に滲み出ている。
きっと成宮先生からしてみたら、『葵は俺の物だから、いつでも自分を甘やかして、無条件に愛して欲しい』。そんな、はっきりとした上下関係が存在しているのだろう。
そんなジャイアンみたいなワガママを、俺はいつも受け入てきている。そして、そんな俺に成宮先生は甘えきっていた。
きっと、どんなに俺が拒絶したって最終的には言う事を聞くだろう……このワガママ男は、そう思っているに違いない。
でも、そうはいかない時もある。そんな、やたらめったら職場でイチャイチャできるかよ。
「駄目ですよ。15時過ぎに、柏木が本を持ってきてくれるんです」
「本?」
「そうです。今書いてる論文に使うんですよ」
「15時だろ?大丈夫だって、まだ20分もあるし。ちゃっちゃっとやっちまおうぜ?」
「ちゃっちゃっと!?」
「そう。ちょっと挿れるだけだよ」
「絶対に嫌です!」
成宮先生が、俺の体を無理矢理ソファーに押し倒そうとしたから、俺も必死に抵抗する。
それでも、どんなに体をバタバタさせて抵抗しても、成宮先生の力には適わなくて……結局は、両手を顔の横に押し付けられて、馬乗りになられてしまう。
こうなると、もう俺にはどうすることもできない。
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