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ごめんね、大好き②

「葵、暴れんなよ……」 「絶対嫌だ!柏木が来て、見られたらどうするんですか?離してください……!」 「こいつ……」  俺は普段、成宮先生に抱かれてくれてるけど、特別華奢なわけでもないし、何より空手有段者だ。 「可愛い顔してんだから、大人しくしろよ」  俺をフィジカルでねじ伏せようとする成宮先生が、眉を顰めた。 普通の成人男性より、かなりパワー系男子2人が取っ組み合いの喧嘩をしてるんだから、そこに艶っぽさなんか皆無だ。  いつも成宮先生に甘く誘惑されて、馬鹿な俺はすぐにその気になって……最終的には成宮先生に『抱いて欲しい』とまでねだってしまう、意志の弱い俺。  でも冷静になって耳をすませば、遠くからはナースコールが聞こえてくるし、医局の前を足早に歩く音も聞こえる。  目の前にあるPHSがいつ鳴るかだってわからない。  俺達が現実から逃避して、甘い時間を過ごしているその瞬間だって、回りのスタッフは一生懸命に働いている。  それを思えば、医局でセックスなんて、以ての外だ。  それに、家に帰ればいつだってできるんだから。 「なぁ、葵……俺、どうしてもしたいんだ。こんなんじゃ、仕事に集中できないよ」 「成宮先生……?」  突然、成宮先生が切なそうな顔をしながら、俺の顔を覗き込んでくる。  その顔を見た俺は、ギュッと胸が締め付けられた。 「手首、赤くなってる……ごめん。痛かったよな?」  成宮が力任せに掴んでいた、俺の手首にチュッと口付けてくれる。 「ごめん。葵……愛してるから抱かせて?」 「成宮先生……」  その熱っぽい視線と、普段はほとんど言ってくれることなどない、『愛してる』という言葉に、俺の心は鷲掴みにされてしまった。  どうしよう……めちゃくちゃ嬉しい。 「葵、愛してるよ」 「……じゃ、じゃあ、できるだけ手短に済ませてください……」 「うん。ありがとう」  顔を真っ赤にさせて唇を尖らす俺に、成宮先生が優しいキスをくれる。 「ふっ、チョロいな。葵……」  そんな成宮先生の呟きなんて、『愛してる』なんて言われて、浮かれきっている俺には全然聞こえていなかった。 「いただきます」  成宮先生が、そっと舌なめずりをした。

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