75 / 184
ごめんね、大好き⑧
ピンポーン。
真夜中にインターホンが静かな室内に響き渡る。俺は少しだけ罪悪感を感じながらも、そっと外から声をかけた。
「智彰 、葵だよ。開けてよ」
「え?葵さん?」
「うん、葵だよ。ごめんね、黙ってきて」
「ちょっと待ってて」
インターフォンからは聞きなれた声が聞こえてくる。
「葵さん、上がっておいで」
優しい声と共に、オートロックのマンションの入口が開いた。
「ごめんね、こんな真夜中に」
部屋に入るなり深々と頭を下げる。俺は両手にいっぱいの荷物を、「よいしょ」と床に下ろした。
「別にいいけど、どうしたの?」
「ん~、別に。しばらく智彰のアパートに泊まらせてもらおうと思って……」
「え?」
あまりにも突拍子もない俺の発言に、智彰が思わず目を見開いた。
明らかに戸惑っているのが、見て取れる。
「泊まる場所って、葵さん、彼氏と同棲してるんだろう?」
「そうだけど……」
痛い所を突かれた俺は、唇を尖らせたまま俯いた。
だって、今の俺には帰る場所なんてないんだから。
「その彼氏から逃げたいんだよ。もう、あの家には戻らない」
「逃げたいって……なんかあったのか?」
「あった……けど言いたくない。ただしばらく、仕事は休む予定だし、彼氏とは……」
目頭が熱くなってきたから、唇をギュッと噛み締めた。
「彼氏とは?」
小刻みに震える背中を、智彰が優しく摩ってくれる。
「彼氏とは別れたから」
「はぁっ?」
俺と成宮先生が付き合って、大分時間がたったけど、喧嘩したのなんか智彰は見たこと無いのかもしれない。ましてや別れ話なんて。
「良くわからないけど、訳ありなんでしょ?じゃあさ、優しい優しい智彰君が、可愛い葵さんを慰めてあげますよ」
そう言いながら、智彰は俺を抱き締めてくれる。
「でもさ、予想もしなかった、突然の可愛らしい迷い犬の訪問は……凄く嬉しいよ。ゆっくりしていって」
そう言いながら微笑む智彰は本当にイケメンで……男の俺でもドキドキしてしまった。
ともだちにシェアしよう!