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ごめんね、大好き⑨
智彰は俺より一つ年下で、同じ大学の出身だ。今は研修医として頑張っているけど、行く行くは緩和ケア病棟で働きたいって言っていた。
人生最後の瞬間を過ごす人達の支えになりたいなんて、本当に優しい智彰らしいなって思う。
しかも、智彰はイケメンと言うことで、大学でも病院でも有名人だった。
色素の薄い髪は短く整えられ、フワッといつもシャンプーのいい香りがする。整った顔立ちに、モデルのようなスタイル。そして、優しい物腰。彼に会う人全員を、幸せな気持ちにさせてくれる……そんな不思議な存在。
そして、それは、成宮先生にとても良く似ていた。
「兄貴、葵さんが出て行ったから、きっと今頃焦ってんじゃん無い?」
そう、似ているも何も『成宮智彰 』は、『成宮千歳 』の実の弟だ。
と言っても、付き合いは智彰の方が長い。共通の友達の飲み会で知り合った智彰とは、なんやかんやで馬が合うのだ。ちょくちょく二人きりで遊びに行ったり、今日みたいに俺が智彰の家に泊まったりすることもあるくらい仲がいい。
「もうあんな馬鹿兄貴なんか放っておいて、ずっとここにいればいいよ」
「ありがとう、智彰」
「いいっていいって」
そう言いながら、俺をギュッと抱き締めながら、頬に軽く唇を寄せてくる。
「あ、相変わらず距離が近い……」
俺はそんな智彰にいつもドキドキしてしまう。
智彰はいつもスキンシップが激しくて、友達からは「お前等付き合ってんの?」って聞かれる位体に触れてくる。
俺は、智彰を恋愛対象でなんか見たことがなかったから、いつもムキになって否定してたけど、智彰は怒ることもなくただ笑っていた。そんな穏やか智彰は、成宮先生のように裏表があるわけでもなく、誰にも分け隔てなく優しくしてくれる。
そう、俺にだって……。
それなのに、いつの間にか、俺は智彰の兄である成宮先生と恋人同士になってしまったのだから、人生って何が起きるのかわからないなって思う。
それでも、成宮先生に似ている智彰を見ていれば、俺の胸は締め付けられた。
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