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ごめんね、大好き⑪

 ピピピピピピッ。  遠くでアラームが起床時間を知らせている。  でも、聞き覚えのないアラーム音だ。俺のでも、成宮先生でもない……誰のアラームだ。 「え?」  俺が目を開けると、目の前にはイケメンのドアップが……。しかも、見慣れた成宮先生じゃない。成宮先生より髪が短くて、少しだけ幼い顔立ち。 「そっか……智彰の家に居候してもらってるんだっけ」  俺は重たい体を起こす。  昨日の醜態を思い出せば、顔にカァッと熱が籠ってくるし、恥ずかし過ぎて、思わず叫びたい衝動に駆られた。 「もう、あの人の事は忘れよう」  俺がした決心。   今は溜まっている有休を消化して、心の整理がついたらまた出勤すればいい。その時には、成宮先生の部下として接すればいいんだ。そう自分に言い聞かす。  昨日、柏木から着信が何回かあったけど、それに出る勇気が俺にはなかった。 それからと言うもの、俺は本当に智彰のマンションに居着いてしまった。成宮先生のマンションに比べれれば狭い間取りだって、俺からしたら天国のように思えた。  疲れ切った体に鞭打って夜の営みなんてする必要もないし、家に帰ってまで気を遣う必要もない。  成宮先生が上手く言ってくれているのだろう。職場からの連絡もなかった。  久し振りに、ゆったりとした時間が過ぎていくのを感じる。   仕事にも行かずにずっと家にいるものだから、自然と家政婦さんのように家事全般を請け負うこととなった。俺は元々家事ができる系男子だし、そんなことは全く苦にもならない。  むしろ、疲れ切って帰ってくる智彰の為に、掃除洗濯をしたり、夕飯を作って待っていることが、俺のやりがいとなっていた。 「今日は肉じゃがでも作ろうかな」  俺は綺麗に畳んだ洗濯物をポンポンと叩いてから、大きく伸びをする。  それから、鼻歌を歌いながらキッチンへと向かって行った。 「あぁ、疲れたぁ!!」 「おかえり、智彰」  俺はつい成宮先生を出迎える癖で、智彰を玄関まで迎えに行った。そんな俺を見た瞬間、瑞稀の頭には耳が生えて、お尻にはブンブンと揺れる尻尾が見えたような気がする。 「ただいまぁ、葵さん!疲れたよぉ!」  そのまま勢いよく俺に飛びついてきたから、俺はバランスを崩しながらもギュッと智彰を抱き締めた。 「ふふっ。智彰は本当に甘えん坊だなぁ」 「なんか、葵さんを見てると甘えたくなる」 「智彰、犬みたいだよ」  俺は思わず声を出して笑ってしまった。  俺は元々長男だから、こうやって甘えられることには慣れていたし、自分を頼ってくる存在が好きなのだ。  だから、犬みたいな智彰が可愛いなって思える。  成宮先生には、こういう素直さや謙虚さなんて、本当に皆無だから。だから、余計に智彰が可愛く見えるのかもしれない。  兄弟なのに全然違う、でもよく似ている2人。  でも俺は気付いてなんかいなかった。俺は無意識に、智彰の中に成宮先生の面影を見つけていたことに……。

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