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ごめんね、大好き⑭
風呂に交代で入り終わる頃には、日付が変わろうとしていた。
「おいで、葵さん。寝よう?」
まだまだ立ち直れない俺に向かって、智彰が優しく手招きをしてくれている。
「大丈夫だよ。嫌いになんかなってないから」
ニッコリと笑ってくれる智彰の存在に俺は、本当に救われた。
「ほら、おいで」
ベッドに恐る恐る近付けば、突然智彰に腕を掴まれてベッドに引きずる込まれる。そのまま、ポフッと抱き締められた。
智彰の腕の中は温かくて、風呂上がりのいい匂いがする。
相変わらず距離が近くて戸惑ってしまうけど、今はその距離感さえも心地いい。
「ねぇ、葵さん。柏木さんに見られた時って、馬鹿兄貴に無理矢理押し倒されたの?」
「最初は……」
「マジで!?」
智彰が声を荒げたから、俺は顔を上げて必死に釈明をした。
「はじめはね……でも、途中からは俺も気持ち良くなっちゃって……俺から『もっと』ってねだった」
「え?そうなの?」
「うん。俺、どうしても千歳さんに流されちゃうから」
その言葉に、一瞬智彰が泣きそうな顔をする。それから、もう一度ギュッと俺を抱き締めてくれた。
「ねぇ、葵さん。やっぱりお嫁さんに来てよ」
「俺も、智彰のお嫁さんになりたい」
「それ、めちゃくちゃいいですね。俺、兄貴と刺し違えてでも葵さんが欲しい」
「ん?何?」
「ううん。なんでもない」
また寂しそうに智彰が笑う。その顔を見る度に、俺の胸がキュッと締めつられる。
智彰と一緒に暮らすようになってから、度々見かけるこの表情。それは、今まで俺が見たことのないものだった。
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