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ごめんね、大好き⑯
俺が眠ってしまった後、智彰はそっとベッドを抜け出し、柏木に電話していた。
数回のコールの後、俺と智彰の共通の友人でもある柏木の声が、智彰の耳に届く。
「あっ、柏木さん。お久しぶりです」
「あー、智彰!久しぶりじゃん。元気してたか?急にどうした?」
「あ、いや、葵さんのことなんですけど……」
「葵!?智彰、水瀬のことなんか知ってるのか!?」
柏木のあまりの取り乱しぶりに、驚いた顔をする智彰。困ったように苦笑いをしている。
「水瀬、ずっと音信不通なんだよ。成宮先生なんて暇さえあれば、探し回ってて……実家には連絡入れてるみたいだから、元気は元気みたいなんだけど」
「音信不通?」
「そう、ちょっと色々あって……」
その言葉に、智彰がピクンと反応する。
「色々って……柏木さんが、兄貴と葵さんがエッチしてるとこを見ちゃった……とか?」
「お前、なんでそれ……」
今度は柏木が絶句する番だった。
「葵さんなら、家 にいますよ?」
「はぁ!?」
「ずっとここにいます。嫁さんみたいに家事をしてくれて助かってます」
「まさか……成宮先生の弟の所にいたなんて……。灯台下暗しだな」
柏木がホッとしたように、大きく息を吐いた。
「俺も見ちゃった手前、めちゃくちゃ責任感じちゃってさ……。ずっとずっと心配してたんだ。でも良かった……居場所がわかって」
柏木が心底、安堵しているのが伝わってくる
「ねぇ、柏木さん」
「ん?なんだ?」
「あの、その……どんな感じでした?兄貴と葵さんがやってるとこ……」
智彰は言うか言わないか悩んだ素振りを見せたけど、ずっと頭に引っ掛かっていた疑問を、思いきって柏木にぶつけてみる。
知りたいけど知るのは怖い。でも知らないのは、もっともっと怖い。そんな複雑な心境に見えた。
「あっ、あぁ……それがさぁ」
「な、なんなんですか?もったいぶらないでくださいよ」
そうもったいぶられると、余計知りたくなってしまうものだ。
「医局に入った瞬間、2人がいたわけなんだけど……どういう訳だか、俺、水瀬しか目に入らなくて……」
電話越しにも、柏木が照れてるのが伝わってくる。
「成宮先生に抱かれてる水瀬が、あんまりにも可愛くて、色っぽくて……ただそれだけだった。それしか感じる余裕がなかった。あいつ、あんな風に成宮先生に抱かれてるんだな」
「そうですか……やっぱ、聞かなきゃよかったな」
智彰がポツリと呟いてから、ガシガシと乱暴に頭を掻き毟る。
「でも柏木さん。俺、今葵さんを手放す気なんてないですよ?」
「はぁ?」
「俺、正直葵さんが俺の所に避難してきてくれたことが、本当に嬉しかったんです。それだけ、俺を信用してるってことですよね?」
「そりゃあそうだけど……」
「だから、手放す気なんてありませんから」
そう言って、智彰は電話を切る。
その顔は、酷く傷ついているようにも見えた。でも、俺はそんな2人のやり取りなんて知る術もない。
ただ、現実から目を背けて、優しい智彰に甘え切っていた。
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