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ごめんね、大好き⑰

 俺は、智彰との同居生活にもすっかり慣れて、悠々自適な生活を送っていた。  智彰は、誰かさんと血を分け合った兄弟の割には、性格だって温厚だし、いちいち気を遣う必要だってない。俺を見下すことなんて絶対にないし、いつも対等な立場で接してくれる。  年下なのに、凄く頼れるし。  俺は、そんな当たり前の事に強い感動を覚えていた。   時々、電源が切られたままのスマホの事が気にはなったけど、敢えてそれからは目を背け続けている。もし電源を入れて、成宮先生から何かしらの連絡がきていたら……俺はどうしていかがわからなかった。だから、俺はスマホの電源を入れられずにいた。  そうやって、俺は現実と成宮先生から逃げ続けている。 「おかえり、智彰」 「ただいまぁ。疲れたよぉ」  大きな犬みたいに甘えた声を出す智彰を玄関まで迎えに行って、俺が作った夕食を一緒に食べる。それから交代で風呂に入って、一つの布団に包まって眠ることが、俺達の当たり前になっていた。  智彰の話はいつも面白くて、飽きることなんてなかったし。2人で過ごす時間は快適だった。  ただ、時々智彰のアパートのベランダから外を眺めれば、世間は慌ただしく動いている。そんな社会に、俺だけ取り残されてしまった気がして……少しだけ寂しく感じた。  それに……少しだけ成宮先生のことが恋しく感じることもある。あの逞しくて温かい腕に抱き締められたい……あの感覚を思い出すだけで、体が甘く疼き出す。  俺だってこんな女の子みたいな見た目をしていたって、男だ。性欲だってあるし、ずっと出さなければ溜まりだってする。そんな時には、ふと成宮先生の温もりが恋しくもなった。 「成宮先生……」  俺は小さく呟いてから、そんな思いを振り払うかのようにフルフルと頭を振った。 「もうあの人の事は忘れるんだ」  そう自分に言い聞かせる。  だって、俺は成宮先生と別れたんだから。  だから俺は、あの人を思い出にする努力をしなければならないんだ。

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