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ごめんね、大好き㉗
それでも、俺はやっぱり不安になってしまう。
成宮先生は、怒っているんだろうか。それとも、仕事まで投げ出して逃げまわっている俺に呆れて、愛想を尽かしてしまったのではないだろうか……。
そう思えば思う程、怖くて怖くて仕方ない。
咄嗟に、智彰の事を追いかけたくなる衝動に駆られたけど、そんな勇気さえ俺にはない。どこまでも意気地なしで、最低な自分が嫌になった。
「怖い……でも会いたい。ごめんなさい。でも……俺は成宮先生が好き」
いつからこんなに臆病者になってしまったのだろうか。
俺は、成宮先生と付き合いだしてから、いつも不安だった。だって、俺の恋人は小児科の若きスーパードクターだ。そんな人と、俺は釣り合うはずなんてない。
だからこそ、いつも成宮先生に嫌われなくないからって、最終的には彼の言いなりになって……今回みたいなトラブルが起きてしまった。
そう、俺は成宮先生と釣り合うような人間ではないから、いつか捨てられるんじゃないかって怯え過ごしていた。
だからこそ、先生から逃げ出すしか、俺できることは残されていなかったんだ。
「怖い……なんでこんなに怖くて、不安なんだろう……」
俺は、いつも2人で仲良く眠っていたベッドに潜り込む。
「千歳さんの匂いがする……」
クンクンと布団の香りを嗅いで、あまりの懐かしさに俺は布団に包まる。そうしていれば、まるで成宮先生に抱き締められている気持ちになった。
「千歳さん……」
次に成宮先生に会った時、俺は素直になれるだろうか。
鼻の奥がツンとなるのを感じる。
「怖いけど、会いたい」
そのまま、枕に頬擦りした瞬間。
ガチャッ。
ドアノブが動く無機質な音が静かな室内に響き渡って、扉が開いた。
トクントクン……俺の鼓動が少しずつ速くなっていく。
怖くて怖くて、俺はギュッと目を閉じた。
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