95 / 184
ごめんね、大好き㉘
「葵……葵……」
足音と共に、聞き慣れた声が静かな室内に響き渡った。
ドクンドクン。指先が冷たくなって、心臓がうるさい位鳴り響く。
一体俺は、どんな顔をして先生に会えばいいのだろうか……。
どうしよう、わからない。
だから、怖いし不安で仕方ない。
誰かに恋をすると、こんなにも惨めで情けなくなってしまうんだ……もう、消えてしまいたい。
フワリ。
次の瞬間、俺の頭にそっと何かが置かれる。それが、成宮先生の手だって気付くまでに、少しだけ時間がかかった。懐かしいこの感触に、俺の胸に熱い物が込み上げてくる。
「葵、見つけた」
俺を布団ごと、そっと抱き締めてくれた。
「なぁ、葵ごめんな。仲直りしよう?」
あ、あの成宮千歳が……謝った……。
予想もしていなかった行動に、俺は必死に首をフルフルと横に振る。
「葵……」
俺をギュッと抱き締めて、足を絡めてくる。布団こそあるものの、俺はスッポリと成宮先生の腕の中に納まってしまった。
「どうしたら許してくれる?」
俺はまた、首を横に振る。
だって、もうどうしたらいいかなんてわからない。
それなのに、心臓がうるさい位にドキドキしている。もう、泣きたくなった。
「アイス……買ってあげるから?」
「………」
明らかに、俺の動きが止まってしまう。何を隠そう、俺はアイスが大好きなんだ。その反応を成宮先生が見逃すはずもなく……更に追い討ちをかけてくる。
「しかもHaagen-Dazsだよ?全種類買ってあげる。だからさ、顔見せて?」
「………」
「布団、剥いでいいか?」
「………」
あまりにも優しい成宮先生の声に、俺の胸は熱く、そして甘く締め付けられた。
コクン。
俺は小さく頷く。
「布団、剥ぐからな」
もう一度確認されてから、そっと布団を剥がれる。
突然差し込む照明の光に目を細めれば、目の前には恐ろしい程に整った顔立ちをした男の人がいた。
「あ……」
久し振りに見る成宮先生の姿に、目頭が熱くなる。
心と、体が小さく震えて……愛おしさが一気に心の中から溢れ出した。
まるで、春を待ち侘びていた花達が、一斉に咲き乱れたかのように……。
ともだちにシェアしよう!