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ごめんね、大好き㉙
「久しぶりだな、葵」
成宮先生が、顔を歪めながら俺の顔を覗き込む。
初めて見るそんな成宮先生の表情に、胸が張り裂けそうになった。
それと同時に、あの成宮千歳がそんな顔をするんだから、きっと明日は大雪か台風だな……って心の片隅で思う。
「お願い、許してよ、葵。俺、お前と別れたくない。別れるなんて言わないで……」
真っ直ぐな眼差しで俺を見つめてくる。
「ごめんな……でも、大好き」
「え……?」
俺はその言葉に、大きく目を見開く。
ズルいですよ、成宮先生。そんな顔をされたら、俺、もう何も言えなくなっちゃう。
「俺……」
「うん?」
俺がポツリと呟けば、成宮先生がそっと頬を撫でてくれた。
「俺、あっち向いてほいがしたいです」
「はぁ?」
成宮先生が不思議そうな顔をしながら、目を見開く。
「早く、じゃんけんしてください」
俺は唇を尖らせながら、成宮先生の洋服を引っ張る。
こんなの、本当に拗ねた子供みたいだ。
「いいよ。わかった。あっち向いてほい……やろう?」
成宮先生がクスクス笑いながら、俺の真正面に座って、胡座をかいた。
「ほら、ジャンケンポン!」
俺がグーで、成宮先生がパー。
「葵、あっち向いて~、ほい!!」
成宮先生が上を指差せば、その指に吸い寄せられるように俺も上を向いてしまった。
「あ……」
「あははは!俺の勝ち」
こんな下らない遊びだけど、なんだか楽しい。
その後何回か繰り返したけど、いつも俺はジャンケンに負けて、成宮先生が指差す方向を向いてしまう。
結局俺は、成宮先生が望むように、喜ぶように反応してしまうのかもしれない。
「葵、弱過ぎじゃない?あはははは!」
ついには腹を抱えて笑いだした。
「うるさいなぁ」
「でも、めちゃくちゃ可愛い」
子供みたいに拗ねる俺を、愛しそうな顔で見つめてくれる。
「なぁ、葵」
成宮先生が優しく優しく俺の名前を呼ぶ。それでも、俺は成宮先生と視線を合わせることが恥ずかしくて、顔を上げることができなかった。
「葵……こっち向いてほい」
「ん、ヤダ……恥ずかしい……」
逃げ惑う俺の頬を、成宮先生がそっと手で包み込んで、自分のほうを向かせる。
俺の子供みたいに真ん丸な瞳の中に、成宮先生がが映り込んで……ようやく俺達の視線が重なり合った。
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