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溢れ出した思い①
仕事で、いっぱいいっぱいになってしまった。
いつも頭の中は仕事の事だらけで、帰宅してからも捌ききれなかった記録や書類関係に追われて。
いつ鳴るかわからない仕事用のスマホに怯える毎日。テレビとかで全く関係のないコール音が鳴るだけで、心臓が止まりそうになる。
他人の腕を見れば無意識に血管を探してしまうし、近くに子供が居れば「この子は正常な発達をしているだろうか」といちいち観察してしまう。
極めつけは、プライベートの時にずっと遠くで鳴っている救急車のサイレンに反応して、その場から動けなくなってしまった。
そんな毎日を送っていれば、食事は喉を通らなくなるし、眠りもどんどん浅くなる。
そんな俺を見た、成宮千歳様が下した判決は……。
「明日1日有給をやるから、少し休め」
だった。
「はい、申し訳ありません」
俺は、プライベートでは彼氏でも、職場では上司だ。素直に従うしかない。
「てか、ちょっと来い」
俺は、成宮先生に人気のない処置室に連れ込まれて、診察台に押し倒される。
「ちょっと、成宮先生……今はそんなことする余裕なんか……」
「違うわ、アホが。いいから黙って少し待ってろ」
ポンポンと頭を撫でられた俺は、処置室から出ていく成宮先生をボーッ見つめる。
次に目を覚ました時には、俺の左腕には点滴の針が刺さっていた。
「あ、これ成宮先生が……」
そんな恋人の気遣いに、俺は泣きたくなってしまった。
研修が終わって少しすれば、いくら新人と言えど医師として1人前になったと周りは判断するだろう。
でも、まだ本当は心細くて不安で仕方ないのに、背負う責任はどんどん大きくなっていった。
受け持ちの患者さんが増えたり、検査や手術に立ち会う事も増えたし、慣れてくればそういった医療行為を次からは1人で任されるようになる。
自分の不安や恐怖とは裏腹に、業務はどんどん過酷になっていった。同期の仲間の中でも、退職した……なんて話もチラホラ耳にする。
「俺も辞めたい。てか、逃げたい」
あんなに夢を見て、あんなに必死に努力をして叶えた小児科医になれたのに……俺は、そんな小児科医を辞めたくて仕方ない。
この辛い現実から、目を逸らしたかった。
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