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溢れ出した思い②
「水瀬!またミスしたのか?あんだけ注意しただろうが!?」
「は、はい。すみません」
「すいませんじゃねぇよ。本当、しっかりしてくれよな」
俺の前でギャーギャー喚き散らしているのは、産婦人科医の藤堂 先生だ。
この人は、本当に猪みたいな性格で思ったことを、まるで鉄砲玉のように口に出してしまう。その言葉で他人が傷付くとか、一切考えることなんてない。
とにかく、今の俺はこの藤原先生に頭を悩まされていた。
「以後、気をつけます」
「この前もそう言ってたろうが?」
「はい、すみません」
「はぁぁぁ……」
藤堂先生の不自然過ぎる大きな溜息に、俺は吹き飛ばされそうになる。
できる事なら関わりたくない。それでも、小児科と産婦人科は切っても切れない関係だから、一緒に仕事をしない訳には行かないのだ。
そして、不思議なことに、ミスはミスを呼ぶのだ。
俺の頭の中は藤堂先生の事で頭がいっぱいで、他の事に集中などできるはずなんてない。
もはや、恋人の成宮先生より、藤堂先生の事を考える時間の方が増えて行った。
「水瀬……お前またミスしたのか?」
「はい。ごめんなさい」
「お前、いい加減にしろよな」
今度は成宮先生が俺の前で溜息をつく。そんな先生に向かって、俺はアクシデントレポート(ミスをしてしまった時に書く報告書)を書く手を止めて頭を下げる。
「お前、そのアクシデントレポート、今週だけで何枚書いた?」
「ご、5枚です」
「5枚!?そんなに普通書かないだろう」
「はい。すみません」
もうこのレポートも書き慣れてしまい、まるで日記を書くかのようにスラスラとペンが進む。
でも……こんなこと有り得ない。いつか重大な医療ミスを犯すのではないかと、自分で自分が怖くなった。
そんな自分を真っ直ぐに見つめる成宮先生の視線が痛くて、思わず俺は俯いてしまう。
もう、消えてなくなりたかった。
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