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溢れ出した思い⑤

 そんな俺に、成宮先生が下した判決が、1日の有給取得だ。  ほぼ休みなく働いていた俺にしてみたら、たった1日の休暇だとしても、本当にありがたかった。  朝早くから出掛けた成宮先生を見送ってから、俺は再びベッドに潜り込む。 「今日は1日寝るぞー」  そう呟いて布団を頭から被った瞬間……。  プルルルル、プルルルル。  枕元に放っておいた、仕事用のスマホが鳴り響く。その音を聞いただけで、全身に力が入り緊張してしまう。心臓がうるさいくらい鳴り響いた。 「もしもし」 「あ、水瀬先生。お休み中申し訳ありません。急変した患者さんの指示をいただきたいのですが……」 「そうですか。どうされましたか?」  それは小児科病棟の看護師さんからだった。  申し訳ないと思うなら、電話してこないで……と思いながらも、何とか電話で指示を出して対応していく。  そんな着信が、午前中だけで4件もかかってきた。 「疲れたぁ……。あ、まだ明日のカンファレンスの資料作ってない」  俺はベッドから抜け出すと、フラフラとリビングに向かいパソコンを開いた。 「こんなんじゃ、全然休んだ気がしないじゃん」  ポツリ呟けば、鼻の奥がツンとなる。  今度はスマホのLINEが着信を知らせて、メッセージを開けば今まさに作ろうとしていた書類の催促だった。メッセージを送ってきた相手は「書類の締切は昨日だぞ」、と相当お怒りらしい。 「こんな書類作ってる暇なんかなかったんだよ」  どんなに頑張ったって誰もわかってくれないし、認めてもくれない。  逆にこうやって怒られてしまう。 「あ、千歳さんはわかってくれてるはずだ」  無愛想で偉そうで、俺には風当たりが強いくせに、誰よりも優しくて頼りになる成宮先生の顔を思い出す。 「早く帰ってきて。1人だと不安で押し潰されそう」  こんな事を言ったら、「情けない奴だな」って呆れられてしまうだろうか。  それでも、俺は成宮先生に会いたかった。 「会いたい……」  俺は、自分の弱さと脆さを思い知った。

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