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溢れ出した思い⑥
「葵、葵!」
「ん、ん……」
俺は優しく揺さぶられる感覚に目を覚ます。
いつの間にか眠ってしまっていたたソファで眠り込んでしまっていたようだ。ソファの近くに座り込んでいる成宮先生に、そっと体を揺らされた。
「葵、こんなとこで寝てたら風邪をひくぞ?」
「あ、千歳さんだ」
俺は嬉しくなって、成宮先生に抱き着く。
そして、その引き締まった体と、柔らかいシャンプーの香りを全身で受け止める。
ずっと会いたかった成宮先生に、「好き」という思いが溢れ出した。
「会いたかったです」
「バカが。朝会ったじゃん?」
「この広い家に、1人は広過ぎます」
そんな俺を優しく抱き留めてくれて、まるで子供をあやすかのように頭を撫でてくれる。
俺は、その慈しむかのような成宮先生の手付きに、うっとりと目を細めた。
「ごめんなさい。俺出来損ないで……成宮先生に迷惑をかけてばかりだ」
プルルルル、プルルルル。
その瞬間、仕事用のスマホが静かなリビングに鳴り響いたから、俺は体を強ばらせる。成宮先生の上着を、無意識にギュッと握り締めた。
「大丈夫だ」
そう囁いた成宮先生が、俺の耳をそっと塞ぐ。
プルルルル、プルルルル。
両耳を成宮先生の大きな手で塞がれた俺は、スマホの着信音が遥か遠くで鳴っているように感じられた。
「大丈夫。俺が後で何とかしとくから」
成宮先生が俺の耳から手を離した時には、着信音は鳴り止んで、再び静かなリビングに戻っていた。
「今日はゆっくり休みな」
フワリと微笑まれれば、情けないことに涙が溢れ出した。
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