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腐れ縁でも愛しい人①

「なんかさ、ダルくね?」 「ダルいですか?」 「めちゃくちゃダリィ」 「そうですか……」 「あぁ?葵のくせに生意気だぞ」 「それは申し訳ありませんでした」  俺は、明らかに機嫌の悪そうな恋人を見つめて、小さく溜息をつく。  成宮先生は年齢の割にはしっかりしてるし、滅多に怒ることのない出来た男だ。でも時々ある、今日みたいな不機嫌な日。  そんな日に限って、ずっと俺の傍にいて離れようとしない。さすがに俺も面倒くさくなって、どこかに逃げようと重い腰を上げれば、 「おい、どこに行くんだ?」  と、腰に腕を絡められ、それを阻止されてしまう。 「すみません、ちょっと出掛けようと思って……」 「駄目だ」 「はい?」 「珍しく休みが一緒になったんだ。今日一日は、俺の傍から離れるな」 「…………」 「わかったか?」  あまりにも傍若無人な振る舞いに、少しだけカチンときたけど、ここで同じ土俵に立ってしまえば大喧嘩になることだろう。俺は大きく息を吐いた。 「はいはい。あなたのお気に召すままに」 「わかってんじゃん?」  成宮先生が、口角を吊り上げて満足そうに笑った。 「ダリィ」 「めんどくせぇ」 「ふざけんな」  その後も、同じ事を何度も飽きることなく呟いては、仏頂面をしている。  少し、1人になって頭でも冷やしてくればいいに……って思うけど、ソファーに座ってパソコン作業をしている俺の背中に、成宮先生はずっとくっついているのだ。 「そんなにダルいなら寝室で寝てきたらどうですか?」 「あぁん?」  普段から忙しい成宮先生を気遣っての俺の言葉に、実に可愛くない天の邪鬼が牙を剥いた。  最近の成宮先生は、論文を書いたり、病院内に新しい委員会を開設したり……忙しい上に更に輪をかけたような忙しさだ。  いつ寝てるんだろうか……と俺は心配にもなってしまう。  どこまでもストイックに生きている恋人の体が、いつか壊れてしまうのではないかと不安になる。  でも、常に『完璧』を追い求め、一切の『妥協』を許さないこのスーパードクターは、きっと誰にも止めることなんてできないだろう。

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