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腐れ縁でも愛しい人④
「なら、ご飯食べてからにしましょう?」
「ん?飯?」
「はい。もう8時過ぎてるし」
時計を見ればもう、20時を回っていて、俺のお腹の虫は先程からキュルキュルと悲鳴を上げていた。
それでも、まるで猫みたいに自分の胸に頬擦りしている成宮先生を見れば、もっともっと甘やかしてやりたくもなるのだ。
柔らかい髪を優しく撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。
「可愛い」
思わず俺は呟く。
なんやかんで、俺は成宮先生が可愛くて仕方なかった。
だって、いろんな診療科の部長達でさえ一目置く、若きスーパードクターが子供みたいに甘えてくるなんて……。こんな姿は、絶対に俺しか見ることができない。
そう思えば、自分はこの人にとって、本当に特別な存在なんだな……って感じることができたから。
俺が立ち上がってキッチンに向かおうとすれば、成宮先生がその腕を掴み、それを制止してくる。
「なんですか?」
今度は何だよ……俺が小さく溜息をつけば、成宮先生が真ん丸な目で、そんな俺を見上げていた。
今日の成宮先生は、本当に理解に苦しむ行動ばかりで……さすがの俺も困ってしまう。
「いいよ、俺がどっかで弁当買ってくる」
「え?」
「なんか、今日の葵……疲れてそうだから」
「成宮先生……」
「だから休んでて。まだ、資料作りも終わらなそうだし」
床に放り投げてあった上着を無造作に羽織、鏡を覗き込みながら手櫛で髪を整えている。
正直、資料が作り終わっていなかった俺は、成宮先生の気遣いが凄く嬉しかった。
自分勝手に振舞っているようで、ちゃんと俺のことを考えてくれていたことが、擽ったい。やっぱり、俺の恋人は優しいのだ。
ただし、超が付くほどの我儘だけど……。
「だから……」
成宮先生が少しだけ照れくさそうに俯く。その整った顔が、少しだけ赤らんでいた。
「飯食い終わったら、抱かせてな?」
そう言い残して、成宮先生は出掛けて行ってしまった。
パタン。
ドアの閉まる音の後、静けさだけが広い室内に残される。
「ちょっと……今飯食っても、味なんかしないでしょう……」
俺は悶絶しながら、頭を抱えてその場に蹲った。
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