112 / 184

腐れ縁でも愛しい人④

「なら、ご飯食べてからにしましょう?」 「ん?飯?」 「はい。もう8時過ぎてるし」  時計を見ればもう、20時を回っていて、俺のお腹の虫は先程からキュルキュルと悲鳴を上げていた。  それでも、まるで猫みたいに自分の胸に頬擦りしている成宮先生を見れば、もっともっと甘やかしてやりたくもなるのだ。  柔らかい髪を優しく撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。 「可愛い」  思わず俺は呟く。  なんやかんで、俺は成宮先生が可愛くて仕方なかった。  だって、いろんな診療科の部長達でさえ一目置く、若きスーパードクターが子供みたいに甘えてくるなんて……。こんな姿は、絶対に俺しか見ることができない。  そう思えば、自分はこの人にとって、本当に特別な存在なんだな……って感じることができたから。  俺が立ち上がってキッチンに向かおうとすれば、成宮先生がその腕を掴み、それを制止してくる。 「なんですか?」  今度は何だよ……俺が小さく溜息をつけば、成宮先生が真ん丸な目で、そんな俺を見上げていた。  今日の成宮先生は、本当に理解に苦しむ行動ばかりで……さすがの俺も困ってしまう。 「いいよ、俺がどっかで弁当買ってくる」 「え?」 「なんか、今日の葵……疲れてそうだから」 「成宮先生……」 「だから休んでて。まだ、資料作りも終わらなそうだし」  床に放り投げてあった上着を無造作に羽織、鏡を覗き込みながら手櫛で髪を整えている。  正直、資料が作り終わっていなかった俺は、成宮先生の気遣いが凄く嬉しかった。  自分勝手に振舞っているようで、ちゃんと俺のことを考えてくれていたことが、擽ったい。やっぱり、俺の恋人は優しいのだ。  ただし、超が付くほどの我儘だけど……。 「だから……」  成宮先生が少しだけ照れくさそうに俯く。その整った顔が、少しだけ赤らんでいた。 「飯食い終わったら、抱かせてな?」  そう言い残して、成宮先生は出掛けて行ってしまった。  パタン。  ドアの閉まる音の後、静けさだけが広い室内に残される。 「ちょっと……今飯食っても、味なんかしないでしょう……」  俺は悶絶しながら、頭を抱えてその場に蹲った。  

ともだちにシェアしよう!