114 / 197

野良猫みたいな恋①

 同じ猫なのに人間を全く警戒せずに近づいてきて、喉をゴロゴロいわせる奴もいれば、物陰に隠れてジッとこっちを見てるだけの奴もいる。  どっちが得か?って聞かれたら、絶対に前者の猫だ。  人にすり寄って喉をゴロゴロいわせて、「可愛い」って頭を撫でられてる猫のが幸せだと思う。  何のプライドもなくお腹を見せて、無意識に媚びへつらって。  そんな猫に、俺はなりたい。  俺の恋人は、俺の聞き分けのいいとこが好きなんだと思う。  なんでも「いいよ」、「大丈夫だよ」って笑ってる俺がいいんだろうなって……。  だから何をされても、何を言われても、何が起きても我慢しようって決めている。あの人は甘えん坊で、俺は長男気質。だから一緒にいて絶妙にバランスがとれてるんだろう。  成宮先生に嫌われたくないし、ウザいって思われたくないから我慢してるっかって聞かれたら、相当我慢はしている。  でも逆に、それが彼への愛情表現にも思える自分もいて……。自由奔放な成宮先生を受け入れられるのは自分だけだって、そう信じたい。そうでありたいと思う。 「でもね、千歳さん……俺ちょっと疲れちゃった。俺もワガママ言いたい……」  こんなくだらない呟きなんて、梅雨の雨に全部流されてしまえばいい。  また、あなたの横で「いいよ」「大丈夫だよ」って笑ってるから。  そう。あなたのお気に召すままに。  そして、俺の恋人はとにかくハイスペックな人物でもある。  小児科の若きスーパードクターとして活躍しているし、スタッフや患者さんからの信頼も厚い。  成宮先生が道を歩けばみんなが振り返るくらい整った顔立ちで、モデルみたいにスタイルもいい。「綺麗」っていう言葉は彼の為にあるような言葉だし、とにかくモテる。  あの人の周りは、いつもミントの香りが漂っているようで……この梅雨のジメジメした季節でさえ、不思議と湿気を感じないくらい爽やかなのだ。  そんな完璧過ぎる男は、なぜか俺にベタ惚れらしく溺愛してくれている。 「葵、可愛い」  そう甘く耳打ちされて口付けられれば、身も心も蕩けてしまいそうだ。 「千歳さんが大好き」 「俺も……」  チュッチュッとリップ音をたてながら唇を啄め合えば、それだけでは物足りずに熱い舌を絡め合う。クチュクチュという卑猥な水音に、どんどん理性は崩壊していった。 「ふぁ、千歳さんのキス、気持ちいい……」 「ふふっ。葵は本当に可愛いな」 「もっと、もっとキスして……」 「いいよ、もっとキスしような」 「ん、んん。はぁ……」  俺の髪を撫でながら再び重ね合わされる唇と唇。もう、唾液で唇がグチャグチャだ。 「ねぇ、千歳さん。キスだけじゃ足りない」 「エッロい猫だなぁ」 「お願い……」  こんな甘やかな時間が、ずっとずっと続くものだと思っていたのに……梅雨の天気は変わりやすくて。俺の心に雨を降らす真っ黒い雲が、ゆっくり音もたてずに近付いてきていたのだ。  そんなことなんか露知らず、俺と成宮先生は久しぶりに休みが重なって、昼間から食事すら忘れてイチャイチャしていた。  ドロドロに溶け合って、全てが気持ちいい。 「あ、あぁ、あん……奥、気持ちいい……もっと、もっと……」 「俺も気持ちいいよ。葵、好きだ」  俺の足は成宮先生の肩に担ぎ上げられて、より深くに愛しい人の昂りを咥え込む。腰をリズムかるに打ち付けられる度に、お腹の中を擦られているみたいで気持ちいいがいい。 「あ、あぁ!ん、ん、あぁ!」  中でイクことを教えこまれたこの体は、一度中で達してしまえば、気持ちのいい世界からなかなか抜け出すことができなくなる。 「気持ちいい、気持ちいい……!」  唇を奪われて、強く吸われて……このまま、成宮先生に食べられてしまいそうだ。  こんな甘い時間に、俺は溺れきっていた。  

ともだちにシェアしよう!