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野良猫みたいな恋⑬

 涙が溢れ出しそうになったから、俺は慌ててリュックサックを掴み橘先生から体を離した。 「す、すみません。これからは気をつけます」  軽く頭を下げて慌てて医局を飛び出した。  やっぱり成宮先生と橘先生は……。  堪えきれなかった涙が頬を伝ったから、俺は必死に白衣の袖で拭う。  心が張り裂けんばかりに痛んで悲鳴を上げた。  悲しくて悔しくて、涙が次から次へと溢れてくる。  それなのに成宮先生が好きという思いだけは、消し去ることができなかった。  マンションに帰る途中、近くの公園に立ち寄る。  ここには野良猫が何匹かいて、餌こそあげないけど写真を撮ったり、一緒に遊んだりしていた。 「今日は猫の集会ないのかな……」  野良猫がいつも溜まっている場所を覗けば、2匹の成猫を見つける。  茶トラの猫と、黒猫。  可愛いから思わず近寄って、「おいで」と声をかけた。  すると、茶トラの猫は近づいてきて喉をゴロゴロ鳴らしながら腹を見せて寝転んだ。その人懐こさに、嬉しくてつい微笑んでしまう。頭を撫でてやれば、満足そうに目を細めた。 「お前は得な猫だなぁ……」  見ず知らずの俺に腹まで見せる警戒心のなさは、呆れるけど本当に可愛い。   逆に黒猫は、俺が近寄ると一目散に逃げて、草むらからこっちをの様子を窺っている。俺が嫌なら遠くまで逃げればいいのに、わざわざ近くの草むらに隠れるなんて……。  本当は「おいで」って迎えに来て欲しいのかなって思う。でも、素直になれなくて。  僕はここだよ、ここにいるんだよ、ってアピールしてるのかもしれない。 「天邪鬼だな」  俺は黒猫を見て苦笑いする。  まるで今の自分みたいだな……って。    素直に思いを伝えれば、きっと優しくしてもらえるはずだよ?  本当に損な性格だよな……。  ポツンと頭に雫が落ちる。 「雨だ…」  俺は急いでマンションに向かった。  どんな顔して成宮先生に会えばいいかなんてわかんなかったけど、あの温もりが恋しくて仕方なかった。 「成宮先生、会いたい」  俺の呟きは、雨音に掻き消されて水溜まりに消えていった。

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