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野良猫みたいな恋㉑

「葵さん、また俺ん家来る?」 「智彰の家?」 「うん。だって見てらんねぇもん」  もう一度ギュッと抱き締められれば、胸が締め付けられる。  あぁ……成宮先生は智彰より少し背が低いのかもしれない。髪も智彰のが硬いし、手も成宮先生より大きい。柔軟剤の香りも違うし、智彰のが筋肉質だし……。  そっか……この人は成宮先生じゃないんだ……。 「俺は、成宮先生に抱き締められたいんだ」  パチンと頭の中でパズルのピースがハマった気がした。 「ごめんね、智彰。こんなみっともないとこを見せて……」  慌てて涙を拭いてから、無理矢理笑顔を作る。 「俺さ、やっぱり……」  俺が口を開いたその時……。 「葵!!」 「え……?」  静かな廊下に、成宮先生の声が響き渡った。  成宮先生が普段大きな声を出すことなんてないものだから、俺の体がビクンと跳ね上がある。  俺は、めちゃくちゃ成宮先生に会いたかったのに、会うことが怖かった。 「嫌だ……ごめんね、智彰」  咄嗟に智彰の体を押しのけて俺は再び走り出す。  ただただ、成宮先生と顔を合わせることが怖くて仕方ない。現実から目を背けたかったから。 「あ、葵!」  突然逃げ出した俺の後を、成宮先生が追いかけてくるのがわかる。その声を振り切るように俺は走り続けた。 「待て、葵!そっちは……!?」 「へ?」 「危ない!!」 「わぁぁぁぁぁ!!」  ガンッという物凄い衝撃音と共に、俺は吹き飛ばされる。そのまま廊下に投げ出された瞬間、目の前を火花が散った。 「ウッ……グハッ!」  あまりの衝撃に俺はその場に蹲る。  薄れゆく意識の中、俺は自分が衝突したであろう物体を見上げた。視点はなかなか定まらなかったけど、ようやくその物体の正体が発覚する。 「あ……ホスピッチュ……」  それは、つい最近発表になったばかりの病院のイメージキャラクターのホスピッチュ。ハムスターくせに、やたら大きなオブジェだった。  何で作られているのかはわからないけど、めちゃくちゃ硬い。 「マジ、か……」 「葵!?大丈夫か!?」  薄れゆく意識の中で、青ざめた成宮先生を見つけた。  

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