135 / 184

野良猫みたいな恋㉒

 気が付いた時には、成宮先生に背負われてマンションに向かう途中だった。 「ん?葵、目が覚めたか?」  成宮先生が肩越しに俺を振り返った。とても優しい表情で……。 「ごめんなさい……千歳さん。もう1人で歩けるから下して……」  そんな強がりを言ったけど、本当は体がフワフワして絶対に1人じゃ歩けない。  それがわかってか、 「ばぁか。あんなネズミにぶつかりやがって……あそこに置いてあるから気を付けろっていう、注意喚起のメールがきてただろうが?いいから、大人しく俺の背中にしがみついてろ!」  相変わらず口は悪いけど、優しい成宮先生。重たいのに、ごめんさいって心の中で謝罪した。 「あれから智彰が頭のCT撮ってくれたんだぞ?後で礼を言っておけ」 「智彰が……?」 「まぁ、私服に着替えさせたのは俺だけどな?」 「あ……す、すみません……」  茹蛸みたいに顔を真っ赤にさせた俺を見て、成宮先生が笑っている。  あ、あの唇で橘先生とキスしたんだ……。  それなのに、俺は素直にその優しさを喜ぶことができなかった。  駐車場を少し行けば、猫の集会場所が開かれる公園の脇を通りかかる。 「あっ、野良猫……」  咄嗟に野良猫のことが心配になった。 「どうした?」  不思議そうに声をかけてくる成宮先生に、 「なんでもないです……」  そう呟いて成宮先生の肩に顔を埋めた。  成宮先生はあったかい……。 『成宮先生は、今でも橘先生が好きなんですか?』  知りたくて仕方ないのに、どうしても聞くことができなかった。  マンションに着けば、コロンとベッドに寝かされた。 「あー!マジいい筋トレになったわ」  俺を下ろした後、自分で自分の肩を揉んでいる。 「お前はそこで寝てろ。CTに異常はなかったけど、あんだけの勢いで衝突したんだから脳震盪を起こしているも知れない」  少しだけ呆れたように成宮先生が笑う。そのまま部屋を出て行こうとしたから、俺は咄嗟に成宮先生を呼び止めた。 「千歳さん」 「ん?」  行って欲しくなかった。傍にいて欲しかった。  不安で不安で仕方ないから……。  思い出す、成宮先生と橘先生がキスしてるシーンを。初めて見た、成宮先生が誰かとキスをしているとこなんて。いつも、俺はああやって成宮先生にキスしてもらってたんだ。  でも、今日成宮先生がキスした相手は俺じゃない。 「千歳さん……エッチしたい。エッチしよう……」  甘えた声を出して成宮先生の気を引く。この言葉があなたの気を一番引けるって、俺は知っているから。 「また?最近エッチしてばっかじゃん」  笑いながら俺に覆い被さってくる。全くその通りだ。俺は今抱えている不安を消すために、成宮先生に抱いてもらうことが増えていた。 「嫌……ですか?」 「全然」  嬉しそうに口角を上げる成宮先生に唇を奪われる。  あぁ良かった……上書きできて……。 「むしろ大歓迎だから」  そう囁かれ深く深く口づけられる。お互いの唇を貪り合って、全ての思考が体から抜け落ちていく感覚に襲われた。  

ともだちにシェアしよう!