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クリスマスに浮気をいます⑤

「クリスマスなのに、なんて顔してんですか……」 智彰の研修先である泌尿器科病棟を覗き込めば、偶然居合わせた智彰に会議室へと連れて行かれてしまう。  忙しいのはどの病棟もだろう。子供の入院患者がいない泌尿器科病棟からは、全くクリスマスの香りを感じることはできなかった。 「あ、これ最近よく被ってますね? 兄貴からもらったの?」  俺が今被っているのは、白いフワフワの毛糸の帽子。なんやかんやで、あったかいから毎日使っていた。 「葵さんは、案外白が似合うんだよな」  笑いながら頭を撫でてくれる智彰……久しぶりに、誰かに優しくしてもらった気がする。  智彰は優しい。 「なぁ智彰、お願いがあるんだ」 そう言いながら智彰に抱きつく。 「なっ!?」  予想外の俺の行動に酷く戸惑ったのか、智彰の体が硬直した。  成宮先生より体格のいい智彰の腕の中には、俺の体がスッポリ収まって。抱き締められてる……って感じることができた。 「智彰、あったかい……」  うっとり目を閉じれば、戸惑いながらも俺をそっと抱き締め返してくれた。 「智彰……今晩俺を抱いてくれないか?」 「はぁ!?」  智彰が素っ頓狂な声を上げながら、俺の体を引き離す。相当ビックリしているらしい。 「あ、葵さん……自分が何言ってるかわかってますか?」 「わかってる。俺、智彰と浮気がしたいんだ」 「はぁ? 浮気がしたい?」 「そう、浮気がしたい」 「本当にあなたの思考回路はどうなってるんですか……」  大きく溜め息を付きながらも、また俺を抱き締めてくれる。「よしよし」って頭を撫でてくれながら……。  久しぶりに他人に優しくされて、不覚にも涙が溢れてきた。 「兄貴と何かあったの?」 「何もない。ただ、智彰とイチャイチャしたいだけ……」 「嫌ですよ。あなたの彼氏にぶっ殺されちまう。それに俺も、あの人に怒られちゃうし……」  俺の耳元でケラケラ笑っている。 「喧嘩でもしたんですか?」 「………喧嘩、した」 「そっか。兄貴さ、俺達の前では聖人君子を装ってるけど、本当はメチャクチャ余裕ないんだろうな」 「うん。ずっとイライラしている」 「多分、葵さんには自分の本当の姿を見せられるんだよ。それだけ、あなたを信用しているから」  そんなん、わかってる。わかってるけど……いくら『仏』って呼ばれてる俺にだって、限界はある。 「智彰は……男の俺なんか抱けない?」 「え?」 「俺とそういうこと、できない?」 「葵さん……」  すがる思いで智彰を見上げた。  俺が浮気してやるって、決心したとき……なぜか智彰の顔が真っ先に浮かんだんだ。   「葵さん……それはルール違反だよ」  そっと智彰から体を離されてしまう。俺は突然なくなってしまった温もりに眉を顰めた。 「嫌だ、嫌だ……離れない! 智彰と浮気するんだ!?」 「あんまり大きい声出したら人が来るでしょう? もう、子供みたいだなぁ」  再び智彰にしがみつけば、強く強く抱き締め返してくれた。 「バカだな……。あなたは兄貴の大事な大事な存在だから……」 「千歳さんは、俺のことなんか大事に思ってない」 「思ってるよ」 「思ってなんかない」  智彰の肩に顔を埋める。申し訳ないと思いながらも、智彰の白衣で涙を拭いてしまった。 「智彰に……抱いて欲しい……」 「……葵さん………」 「お願いだから……」  戸惑いながらも、智彰の腕が腰に回されたのを感じた。  

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