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クリスマスに浮気をします⑥

 外に出れば、ハラハラと白い天使が空から舞い降りてきていた。 「ホワイトクリスマスか……」  吐く息さえも、白い結晶になってしまいそうな位寒い。  いつの間にか、夜になっていて……あまりの極寒の世界に、体を縮こまらせた。  結局智彰には、『兄貴の所に帰れ』って追い帰されてしまった。  会議室のドアを閉める直後、 「ごめんね、一緒にいてやれなくて……多分、今あなたと一緒にたらヤバイから……絶対、ヤッちまう」  ポツリと、智彰が呟いた言葉なんて聞こえなかった。  トボトボと家路に着く。   2人の家に帰る気もしなくて……ゲーセンで時間を潰そうと決めた。  街へ出れば、そこはクリスマス一色だ。街路樹は綺麗なイルミネーションをその身に纏い、まるで夜空の星々みたいに輝いていた。  楽しそうに手を繋ぎながら歩いていくカップルに、ケーキの箱を大事そうに抱える親子の姿を見れば、何だか悲しくなる。  このきらびやかな世界に、一人取り残されてしまった気がするから。 「なんなんだよ、クリスマスって……」  どうにか自分を奮い立たせるために、ケーキでも買って帰ろうかな……なんて思う。どうせなら、ワンホール買って一人で食べてやろうか。  それにビールとツマミも買って……きっと一人でもクリスマスを満喫できるはずだ。  角を曲がって大きな広場に出た瞬間、俺は思わず息を飲んだ。  目の前には、それはそれは大きなクリスマスツリーが立っていたから。  綺麗に電飾が施され、たくさんの飾りが吊るされていて、それが電飾の光を受けてキラキラと輝いている。てっぺんには大きな星が乗せられていた。 その回りには、たくさんのランタンが並べられていて……その幻想的な光景に、しばし見とれてしまった。  その大きな大きなクリスマスツリーは、深々と降り続ける粉雪の中、眩しいくらいに光輝いていた。 「超綺麗じゃん……」  思わず涙が出そうになる。 「千歳さんと一緒に見たかったな」  堪えきれず、涙が頬を伝う。  クリスマスに染まりきったこの世界は、今の俺には眩し過ぎた。 『綺麗だね』  って喜びを分かち合える相手がいるって、本当に幸せなんだな……って思う。 「千歳さん、クリスマスツリーが綺麗だよ」  そっと呟いても、『うん、そうだね』って笑ってくれる成宮先生は、隣にいなかった。  きっと今も、入院して患者さんの対応に追われていることだろう。手伝ってくればよかったな……少しだけ後悔してしまう。  街中どこを見ても、千歳さんとの思い出に溢れていて心が締め付けられた。  夜も遅くなれば、人影もまばらになって。きっとみんな、温かい家の中でパーティーをしているのかもしれない。 「寒い……」  ブルッと身震いをして、帽子を目深かに被り直す。  結局最後まで、手放せなかった毛糸の帽子。この帽子だけは、最後まで俺を温めていてくれた。  

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