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クリスマスに浮気をします⑦

 最後に、大きな公園に立ち寄った。  ここはゲイの人が出会いの場所に使う公園だって、以前成宮先生が教えてくれた。俺みたいにボーっとした奴は、すぐに喰われちゃうから絶対に近寄るなって。  でもいい。今日俺はそれ目的で来たんだ。だって、今更女の子を抱ける自信なんてない。  公園はクリスマスだからか、人がたくさんいる。そのギラギラした雰囲気に、少しだけ圧倒されてしまう。  地面に座り込んで空を見上げた。  相変わらず、真っ白な羽みたいな雪は降り続けている。 「ホワイトクリスマスだ……」  かじかんだ手に息を吐きかけて温める。このままいたら凍死するかも……ってくらい寒いのに、一人で家に帰りたくなんかなかった。  クリスマスなんて興味がなかった。だって、特別な日だって思えなかったから。 でもそれは、今まで俺が恵まれた環境にいたから。クリスマスを祝おうって努力なんかしなくても、毎年俺の隣には成宮先生がいた。  何もしなくても、クリスマスを楽しく過ごせていた。付き合って何ヵ月記念日とか、バレンタインとか、誕生日とか……。  一人になって思い知る。そんな記念日の大切さを。  きっとバチが当たったんだ。  成宮先生が『サンタクロースはいる』って言ったときに、俺は素直にそれを信じなかったから。可愛くないから、サンタクロースが怒っちゃったのかもしれない。でも今なら信じられる。 サンタクロースはいるんだ。 「こんな所で何してるの?」 頭上から声がしたから驚いて顔を上げた。  成宮先生じゃない……全然知らない男の人が目の前に立っていた。 「君、泣いているの? 可愛そうに」  いつの間にか頬を伝っていた涙を、しゃがみこんで、ハンカチで拭いてくれる。  暗くて顔はよく見えないけど、多分成宮先生より少し年上だろう。高そうなスーツをサラッと着こなしている。 「凄く可愛い顔をしてるんだね。一人? 良かったら一緒にクリスマスを過ごさないかい?」 俺を覗き込んでくる顔を良く眺めれば……なかなかのイケメンで。その成熟された男の色気に、圧倒されてしまった。  俺は浮気相手を探している。  そして、今その相手を見つけることができた。 「体が冷えきっているね。温めてあげる」  そっと抱き締められれば、上品な香水の香りに包まれた。  きっと、この人と浮気をしたら、俺は一生サンタクロースには会えなくなる……それでもいい。  俺は、クリスマスイヴに浮気をしたいんだ。もう、全部がどうでも良くなっていた。 「可愛いね……」  そっと口付けされそうになったから、半ば自暴自棄になって俺も目を閉じた。 ごめんなさい。サンタさん。 心の中で謝罪した。

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