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ずっとずっと一緒だよ①

 俺達医療従事者にぶっちゃけ盆暮れ正月なんてない。  早めに配られた勤務表を見れば、バッチリ年越し当直だった。でもそんなの慣れっこでもある。独身で身軽な俺のような者が、年越し当直をするのがこの世界では当たり前のことなのだ。  ただ今年は、恋人の成宮先生と一緒の年越し当直だったから、少しだけワクワクしてしまう。  一緒にカウントダウンをして、2024年を迎えた瞬間に甘い口付けを交わす。お互い潤んだ瞳で見つめ合えば、体まで疼き出して……。 「葵、声我慢できるか?」  耳元で甘い囁きが聞こえてきたから思わず体に力が籠る。 「我慢なんてできない」  そう駄々を捏ねているうちにそっと医局のソファーに押し倒されて、成宮先生の細くて綺麗な指が俺の体をまさぐり出した。 「あ、あぅ……」 「こら、声出すなって言ったろ?」  俺をたしなめるように重ねられる唇に翻弄されて、頭の奥がボーっとしてくる。  このまま一つになりたい……甘えたように体を擦り寄せれば「可愛いな」って優しく微笑んでくれた。  スルッとスクラブの中に入り込んできて指先に、キュッと胸の飾りを摘ままれる。 「んッ、はぁ……」  これ以上は駄目、そう呟こうした瞬間……。 「おい、葵。暇なら大掃除手伝ってよ」 「え? あ、はい」 「何ニヤニヤしてんだ? やらしいな」  意地悪く笑われてしまい頬がカァッと熱くなった。  クッションを抱き締めニヤニヤしていた俺は、さぞやアホ面をしていたことだろう。恥ずかしくて成宮先生の顔さえ見ることができない。 「ほら、一緒に窓拭こう? 終わったら、おせち料理の買い出しに行かなきゃだし。お節料理は何が食いたい?」 「俺、伊達巻が食べたいです」 「ふふっ。葵は本当に子供みたいだなぁ。伊達巻好きなんだ?」 「はい。フワフワしてて甘くて……大好きなんです」 「フワフワしてて甘いなんて、葵の唇みたいじゃん?」 「え?」    にっこり微笑まれながら顔を覗き込まれた俺は、酢だこのように真っ赤になってしまう。この人のイケメンさは、本当に反則だと思う。  その瞬間、チュッと唇に温かなものが触れる。  あ、キスだ……そう思った俺はそっと目を閉じた。 「ほら、フワフワしてて甘い」 「馬鹿……」 「ごめんごめん。早く大掃除終わりにするぞ?」 「はい」  大掃除だってなんだって、2人でいられれば嬉しくて仕方ない。  俺は成宮先生の背中に飛びついた。  年末年始は実家に帰る予定もないから、きっと2人でゆっくりお正月を過ごせるはずだ(逆に、成宮家に帰省するからついて来いなんて言われたら、どうしたらいいかわからなくなて寝込んでしまいそうだ)。  だから当直が空けたら2人でゆっくりお正月を過ごそう……そう約束をしていた。 「成宮先生のおせち料理、楽しみだなぁ」  きっと俺が犬だったら、尻尾をブンブンと振り回している。  すっかり年末の雰囲気に便乗してしまっていた。

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