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バレンタインに愛の囁きを①

 物事には順序があるんだと、俺は思っている。  例えば、一番始めが『好き』で、その先が『大好き』。  好きとか、大好きって言葉は幼い中に必死さが込められていて、本当に可愛らしい。  でも、いつしか大人になって思い知ることになる。『大好き』って言葉だけでは表現できない思いがあるっていうことを。そして、出会ってしまうのだ。『大好き』って言葉だけでは表現できない程、強い感情を抱く相手に。  そんな時に、初めて『愛してる』って言葉を使うんだと思う。  この言葉は、子供の頃は知らなかった責任とか、覚悟が必要になってくるんだ。  でも俺は、凄く大切な人に『愛している』って言うことができない。『大好き』ならいくらでもいえるのに、それより先の言葉が出てこない。  それが、とてももどかしくて、歯痒くて……俺は、そんな自分が嫌いだった。   俺には、もうすぐ付き合って二年になる恋人がいる。  その人のカテゴリーは『職場の上司』だったのに、いつの間にか、自分でも気付かないうちに恋人に昇格していた。 『俺の所に嫁に来い』  その言葉を初めて言われた時、俺の中の時間が止まった。このイケメンは、こんな凡人に向かって一体何をいっているのだろうか……。始めは冗談かと思ったけど、その表情は真剣そのもので。俺をからかっているんじゃないってことは、一瞬でわかってしまった。  真正面から俺にぶつかってきた彼を、俺は見て見ぬふりなんかできなかった。  知らないうちに、その人を目で追うようになって、見ているだけで胸が苦しくて、不整脈にまでなって……そして、いつの間にか自分も恋に堕ちていた。  そして、気付いたら、 『俺も貴方が好きです』  って自分から告白していたんだ。 「あれから、もう二年かぁ」  ポツリ呟けば、俺の独り言は白い結晶となって空へと舞い上がっていった。  今日の未明から雪が降るって予報だったから、今晩はやけに冷える。冷たい指先に息を吐きかけながら、俺は仕事帰りに深夜のスーパーへと向かった。  今日、2月14日はバレンタインデーだから、恋人に何か作ってあげたかったから。  大体バレンタインデーは、いつもチョコを貰う側だったから、あげる側に180度方向転換したことに正直戸惑ってはいた。  でも、俺は彼氏に抱かれる側の、所謂猫だから、俺が成宮先生にチョコをあげるので合ってるんだと思う。  今日、成宮先生は遅くまで残業だって言ってた。だから、先生が帰ってくるまでに早くお菓子を作ってしまわないと……と、少しだけ焦っている。 『ありがとう。凄く嬉しい』  そう笑う成宮先生を思えば、スーパーまでの道のりが、まるで遊園地に向かっているように感じられた。  ドキドキするのに、凄くワクワクする。  でも忘れちゃいけない。遊園地には優雅に回る回転木馬だけじゃなくて、お化け屋敷やジェットコースターもあるってことを。

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