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いい子いい子してほしい②
「いいじゃん。兄貴いないんだし。葵さん、おいで……」
俺の頬にそっと手を当て自分の方を向かせる。イケメンと視線が絡み合い、一気に体が熱を持っていくのを感じた。
「よし、いい子だね。葵さん、Knee lは?」
「え?」
「Kneelはできるかな?」
林檎みたいに真っ赤な顔をしながら狼狽える俺は、意図も簡単に壁際まで追い詰められてしまう。二人の体重で、ベッドがギシッと音を立てながら静かに揺れた。
「葵さん、Kneelだ」
智彰の声は蜂蜜みたいに甘いのに、その瞳は獣のようにギラギラと光っていた。そんな視線に、俺は釘付けになってしまう。
──目を逸らしたい。逃げ出したい。
そんな強い欲求があるのに、体はまるで凍りついたかのように動いてはくれなかった。
「Kneel!」
智彰の厳しい声に、体がピクンと跳ね上がる。
そして、女の子のように膝は付けたまま爪先を開いて、ペタんとベッドに座った。丈の長い白衣を邪魔に感じたのだろうか……バサッと強引に両肩が見えるあたりまで下ろされてしまう。
俺の体がカタカタと小刻みに震えている。しかし俯いたその顔には、恋人に対する罪悪感と、好奇心という相反する感情が浮かんでいることに智彰はきっと気付いているだろう。
「智彰………Kneelができたから、俺を褒めて?」
そう呟きながらそっと頭を下げる。伸びた髪がサラりと頬にかかりくすぐったかった。
「葵さん、良くできました。それにめちゃくちゃエロい」
智彰が満足した表情を浮かべる。今まで特定のSubがいなかった智彰にしてみたら、今の俺に強い執着を感じているのかもしれない。
そんなことが、なぜか俺も誇らしかった。
「いい子いい子」
頭を優しく撫でてもらえば嬉しくて、幸せで……智彰を見上げて微笑んでしまった。
もう、蕩けてしまいそうだ……。
「これは、ヤバい……Subって、こんなに可愛いんだな……」
俺の頬をそっと撫でた智彰の指が擽ったくて、思わず 体を捩らせた。
「こっちにおいで……もっとCare をしてあげるから」
優しく抱き寄せられれば、少しだけ体に力が入ってしまったけど、大人しく智彰の胸に体を預ける。そんな俺の名前を、愛おしそうに呼んでくれた。
「葵……」
少しずつ智彰の顔が近付いてきたから、俺は期待を含めながらそっと目を閉じる。胸がトクントクンと甘く高鳴った。
俺は、このDomに支配されたい……。
智彰の温かい吐息が俺の頬を掠めた瞬間。
「何やってんだよ?」
「……え……?」
突然不機嫌そうな声が、頭上から聞こえてくる。
「チッ。もう来たのかよ……いいとこだったのに……」
智彰が舌打ちをしながら声がしたほうを向けば、眉間に皺を寄せ、怒りを露にした成宮先生が立っていた。
「もっとゆっくり会議してろよな……」
「うるさい。葵が心配だから急いで帰ってきたら案の定……お前がいる病棟に葵を置いてくんじゃなかった」
そう言いながら、ズカズカと処置室へと入ってくる成宮先生。ベッドにちょこんと座っている俺を睨みつける。
「………………」
その視線に恐怖を感じた俺は、声すら出せなくなってしまった。
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