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新倉(にいくら)先輩のヴァイオリン、聞けて良かったね!」 「本当に! 私もあんな風に弾けたらいいのに」 「小さい頃からし続けているのでしょ? きっと、毎日欠かさず練習してきたのでしょうね。私、そこまでの努力したことが無いから、本当、すごいと思う」 音楽室から来たらしい女子二人がそんな会話をして、朱音の前を通り過ぎた。 新倉? とても聞いたことのある名前だった。 一体どこで。 ヴァイオリン。新倉·······。 頭の中でふいに、夕暮れに染まる家の部屋の窓際で、在りし日の『しおんにぃ』が、ヴァイオリンを弾く姿が過ぎった。 「あ、そうだ」 小学生の頃。 どこかの番組で、何かの賞を受賞し、インタビューされている小学生が映し出されていた。 その小学生は、習い事の発表会で着るような服を身に纏い、ヴァイオリン片手に、緊張気味にはにかんだ顔を見せていた。 顔を観た途端、『しおんにぃだ!』と飛びついたことも思い出した。 そう。そして、テロップに出されていた名前が──。 「しおんにぃ!」 気づけば音楽室に走って、喜び溢れる声で憧れの兄の名を呼んだ──が。 音楽室には誰一人いなく、電気が付いていなく、だが、昼間であるため、外からの光で充分に明るく照らされていた。 気づくのが遅かった。 朱音の声で響いていた教室は、すぐさましんと静まり返っていた。 「どこに行ったんだよ、しおんにぃ·····」 苛立ち気に呟いた直後、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったことにより、音楽室を名残惜しげに見た後、とぼとぼと自分の教室に帰って行った。 SHRが終わり、いつも集っている友人らに慰められながら、帰ろうとした時だった。 「新倉先輩、今日も屋上にいるかな?」 「後で行ってみない?」 「私も行くー!」 教室内での同級生の女子達の会話に、ぴたりと足を止めた。 『しおんにぃ』が屋上に? 今日も? 同級生はいつから『しおんにぃ』が屋上にいることを知っていたのか。 ──いや、それよりも。 「朱音?」 「どうした? 早くゲーセンに行こうぜ」 「わりぃ! 用事思い出したわ! 行けねーわ!」 「「はぁ!?」」 顔の前で手を合わせたのもそこそこに、友人らの「慰め代返せや!」「今日の詫び、どっかの日に埋めろよー!」と言う声を聞くや否や、一目散に屋上へと向かった。 『しおんにぃ』がいることにものすごい期待を込めて。

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