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「俺の記憶違いらしくて、兄弟じゃなかった」
「·····ほ〜·····。兄弟じゃない·····はい?」
自分の聞き間違いかと言わんばかりに訊き返す大野に、もう一度言ってみせると、「そうくるか」と言った。
「あ、けど、別れたのってかなりちっさい時の話なんだっけ? まあ·····そう、か··········。ずっと捜し続けていたのに、こんな結果じゃなあ·····」
非常に言いづらそうにしている大野に、やはり言わなければ良かったとも思ったが、誰かに言わないとこの気持ちは抱えきれなかった。
気まずい沈黙が流れ、そのうち、自分らが通う高校の最寄り駅に着き、重たい足で歩いていく。
すれ違う他の生徒達は、「今日は小テストだ〜」だの、「ゲームを遅くまでしたせいで、ねみー」だの、他愛のない話をして盛り上がっている。
そんな中、大野と朱音は、互いに何にも言えず学校を目指して歩いていくのみだった。
「·····あの、さ、朱音」
「·····うん?」
声を掛けづらそうに言う大野が、また沈黙が訪れそうになった頃合いに迷う口を開いた。
「兄弟じゃなかったとしても、こうしてまた会えたことって、めっちゃ嬉しいことなんじゃないかと思うんだわ。昨日、俺言ったけどさ、ずーーーっと諦めずに想って、捜し続けることって、簡単じゃないと思うのよ。俺ならもう諦めてしまうけどさ、朱音はそうしなかった。そうしなかった結果、会えた。すげぇよ、お前。すげぇすげぇ」
「ちょ、いきなり何すんだよっ」
「えらいえらいと思ってな」
「だからって、お前な·····っ!」
ぐしゃぐしゃに髪を撫でてくる大野に抗議したものの、紫音がやっていたことを思い出し、されるがままになっていた。
兄弟ではなかったことは、悲しい。本当悲しいけれども、大野が言っていたように今まで諦めずに捜し続けたのが幸いし、一瞬過ぎった、もうこの世にいないことはなく、こうしてまた会えた。
長らく会わないうちに、朱音に対する態度は変わったものの、これで良かったんだ。
「大野」
「ん?」
「ありがとな」
ずっと撫でていた手が止まった。
そして、何故か目を丸くし、半開きな口という、何とも間抜けな顔を見せてきた。
「大野?」
「いや··········らしくねーなって思って」
「はぁ? 俺、ちゃあんと礼を言う時は言うだろ!」
「えー·····? そうだったか?」
「そうだっつってんだよ! さっさと手ぇ、どけろ」
いつまでも乗せられていた鬱陶しい手を雑に退かし、づかづかと一人歩いていく。その後すぐに、「待てよ!」と追いかけてくる。
「全く、怒ることはねーだろ。冗談だって」
「じゃあ、ジュースおごってくれよ。それで許す」
「仕方ねーな。·····って、それが目的か?」
ピタリと朱音は立ち止まる。
突然の行動に戸惑いを覚えているらしく、大野は「どうした?」と顔を覗き込んでくる。
するとくるりと、大野の方に顔を向けると、満面の笑みでこう言った。「まぁな!」
そうして走り出す朱音。
一拍遅れて、大野が 「てめー! このー!」と走り出す気配を感じた。
「やべぇ!」
叫びながら全力疾走で通学路を駆け抜けていく。
すれ違いざまに、「なんだなんだ」と見られたが気にしなかった。
今の今が楽しくて仕方ないのだから。
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