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──と、思っていた時が僕にもありましたァ!
心の中で叫ぶ。
あの朝の勢いでいけば、昨日の紫音のあんな行動を気にもせず、長年会えなかった間の思い出話でもしようかと思っていたが、いざ本人の前──正確に言うと、会おうと思っている最中──となると、無理なのではと後ろ向きな気持ちになり、尻込みしていた。
でも。らしくないと、苦笑する。
そう、らしくないのだ。いつものように無鉄砲さを貫けばいいのだ。
──兄弟じゃなかったとしても、こうしてまた会えたことって、めっちゃ嬉しいことなんじゃないかと思うんだわ。
大野に言われた言葉が胸に響く。
どんな形であれ、会えたことに嬉しいことには変わりないのだから。
会うだけ会ってみよう。
放課後、夕焼け色に染まっていく廊下を歩いてき、屋上へと赴いた。
意を決して扉を開けると、昨日も聞いた音色が耳に入っていく。
今日もあの表情をしていたこともあり、弾いている旋律よりも物悲しく感じる。
まるで紫音の心境を代弁しているようだ。
「しおんに──·····紫音」
ぴたと、弾く手が止まった。
ヴァイオリンを下ろした後、こちらに顔だけ動かす。
相変わらず、睨みつけるような視線に怖気付きそうになったが、一歩踏み出す。
「何しに来た」
昨日と同じ物言いに眉が下がりそうになったものの、口を開いた。
「話に来たんだ。俺、しおんに·····紫音に、話したいことがいっぱいあるから」
「··········俺には、無い」
ふい、と朱音から目を逸らす紫音に、構わず言い続けた。
「昨日、紫音が俺と兄弟じゃないと言われた時、ものすごくショックだった。ずっと想い続けていたことがその一言で、全て終わってしまって·····。けど、こうしてまた紫音に会えたことは嬉しい。とっても嬉しいんだ。だから俺、あの頃のように紫音と思い出を作りたいなって」
「··········」
「あ! 俺のことがうぜーとか思ったら、もう来ないから! あ、けど、やっぱ俺はしおんにぃに会いたい。·····あ、紫音に会いたいだった。へへ·····」
「··········──に 」
「へっ?」
照れ笑いしながら頭を搔いていると、少しの間の後、紫音がぼそりと呟いていた。
聞き返した直後、少しだけ顔を、やや俯きがちに朱音の方へ向けた後、はっきりと言った。
「勝手にしたら?」
目を見開いた。
ここで拒絶されると思い、少なからず覚悟をしていたが、予想だにしなかった反応に無意識に握っていた手が緩んだ。
ほんの少し。紫音のそばにいても良いと許されたのかと思うと。
目から雫が一滴零れた。
「しお·····しおんにぃ!!」
叫び、紫音の方へ駆け出した勢いのまま、抱きついた。
「·····おま·····っ!」
「しおんにぃ! しおんにぃ!」
気づけば『しおんにぃ』呼びとなっていた朱音だったが、それよりも嬉しさが勝り、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。
その間でも紫音は、無理やり引き離すことはなく、何かを言うこともなく、朱音のされるがままになっているのであった。
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