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『ねぇ、あかとくん。なにしているの』 『ミニカーをはしらせてるの』 『ぼくもいっしょに、はしらせていい?』 『う、·····う、んと·····』 リビングへと一緒にやって来た二人は、朱音がさっき遊んでいた場所へと行くと、一人でさっさと遊び始める朱音に紫音もすぐそばに座り、不思議そうに見つめていた。 さっきは思わず頷いてしまったけど、改めて言われて、口ごもってしまった。 自分の大事な物を盗られてしまったら、壊されてしまったらどうしようと。 床で走らせていたミニカーを見つめたまま黙っていると、「どうしたの?」と心配そうな声で言われた。 『やっぱり、いっしょにあそぶの、いやだった?』 『·····あ、えと·····』 『だったら、いいよ。ぼく、ちがうことをしてるから。ひとりであそんでいいよ』 『ち、ちが·····』 立ち上がった紫音は、朱音から離れていく。 その後を気づけば追いかけ、自分より少し大きな手を掴んだ。 『·····え、なに?』 自分より背の大きい紫音が後ろを振り返り、まん丸になった目を向けていた。 手を見つめたままの朱音は、さらにぎゅっと掴んだ。 『·····いか、ないで』 『ぼくもいっしょにあそんでいいの?』 しゃがんだ紫音が朱音の顔を覗き込んだ気配を感じながら、泣きそうな顔をして、頷いた。 それを見た紫音は、小さく笑って、『よかった』と安堵の息を吐いた。 その声につられて見上げると、さっき見た笑った顔の紫音がそこにいた。 『ぼく、あかとくんにきらわれちゃったのかとおもった。よかった』 『あ、ぼく、きらってない。ミニカー、こわされちゃったら、いやだなって·····』 『こわす? ぼくが?』 『·····うん』 自身に指を差し、きょとんとした顔をする紫音に頷くと、笑みを深めた。 『しないよ。だって、あかとくんのだいじなものなんだもん。たいせつにするよ』 『ほんと?』 『うん、ほんとう』 『ぜったいのぜったい?』 『うん。ぜったいのぜったい』 そこでようやっと目を輝かせた朱音は、『じゃ、あそぼ!』とぐいぐい引っ張って、紫音と共に元来た場所へと戻った。 『はい、これ』 乱雑に並べてあったミニカーの一台を紫音に渡すと、『ありがとう』と言って床に滑らせようとすると、また朱音が『ぜったいにこわさないでね!』と念押しするのを、苦笑気味に『うん、わかってるよ』と言って、やっと滑らせた。 そのうち朱音も一緒になって、滑らせて遊び始めた。 『ね、なまえ、なんていうの』 ただ走らせてしばらくした後、不意に朱音はそう訊ねた。 紫音は一瞬きょとんとするものの、小さく笑った。 『しおんっていうの。にいくらしおん』 『し、お·····ん·····?』 『そう。しおん』 『しおん·····!』 目をキラキラさせ、不意に立ち上がり、『しおん』と何度も何度も飛んだり跳ねたりしながら、言っていた。 突然のことに呆気に取られていた紫音であったが、堪えきれず大笑いをした。 それに駆けつけてきたらしい、二人の母がほぼ同時に、『どうしたのっ!』と叫ぶ。 朱音も驚いて、立ち止まった。 それらを特に気にしてない様子の紫音は、少し落ち着かせた後、『たいしたことじゃないよ』と笑いながら言った。 『あまりにも、あかとくんがかわいくて』 『?』 『あら、そう』 『そうなのね』 朱音は首を傾げ、二人の母は微笑んでいた。 そんな中、紫音は涙を拭いて、立ち上がり、朱音の前に立った。 『よろしくね、あかとくん』 『·····! うんっ! しおんくん!』 そう言って、二人は笑い合ったのであった。

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